微生物が生きる土に寄り添い人間も生きる クルンノウエン 茅畑孝篤

アグリ(農)

微生物が生きる土に寄り添い人間も生きる クルンノウエン 茅畑孝篤


微生物が生きやすい土にしてあげるという炭素循環農法。人間の視線を持ち込まず、自然の都合に即して野菜を育てている。炭素が循環する土は、雑草も少なくなるけれど、収量は多くなるという。草も木も人も微生物も、すべての命がそこでは繋がっている。

文・宙野さかな/写真・宇宙大使☆スター

大学の助手から農の世界へ。

肥料をいっさい入れず、チップや廃菌床など炭素率の高いものを大量に投入する炭素循環農法(たんじゅん農法)。特別なことは何もしない。当たり前に自然界で行われていることから少しだけ無駄を省いてあげる。ブラジル在住の林幸美さんにより伝えられた、ブラジルで行われていた農薬も使わない農法だ。

熊本県荒尾市で茅畑孝篤さんが営む <クルンノウエン> も、炭素循環農法によって作物が育てられている。

広島の大学で、日本画の非常勤助手と作家という二足の草鞋をはいて生活していた茅畑さんが、奥さんのますみさんの実家である荒尾に移住したのは2009年前のこと。お子さんのアレルギーも、移住の大きなきっかけのひとつだった。

「自分が食べたものが子どもに現れてしまう。それを実感した嫁さんが、食生活をガラリと変えた。それまではジャンクフードが当たり前の暮らしだったんですけどね。自分も体調を崩して休職しました。それは過労によるところが大きかったんですけど、作家活動と非常勤助手という似て非なることをしていましたから、家にいる時間がほとんどなかったんです。子どもと顔を合わせるのが、一日のうちに1時間あるかないか。何が幸せかって考えたら、復職しないで辞めてもいいかなって思ったんです」

食べ物への関心は強くなっていたものの、農をするための移住ではなかったという。奥さんの実家は花卉農家で、家族が食べる野菜を無農薬でつくっていた。手伝いとしてはじめた農。2カ月ほどして、近所に住む知人がはじめていた炭素循環農法に出会った。「ほうれん草を食べさせてもらったんですね。そしたら、本当に美味しくて。知人も『土に廃菌床を混ぜただけ』という説明を熱心にしてくれた。そんな簡単なことで、美味しい野菜ができるんだったら、やってみようかなと思ったんですね」と茅畑さん。



微生物を生かす土に寄り添う。

炭素循環農法の基本的な考え方は、さまざまな微生物が生きる土にすること。生のチップや竹、きのこを栽培した後の菌床などを畑に入れていく。

「林さんが伝えたたんじゅん農法には、野菜を育てるのは人間じゃない、自然のなかの微生物の働きで土はつくられ作物は育ってしまう、とあります。そのシステムを畑でも再現する。ただ森や林のなかの循環量じゃ足りないんですね。野菜っていうのはサイクルが早いので、エネルギー量が全然違うんです。自然よりも、もっと自然の状態をつくる。そのための具体的な方法が、いろんな方の実験の結果をシェアすることでこの1年半くらいの間でつかめてきました」

茅畑さんの方法とは畝と畝の間に溝を深く掘ること。掘る深さはその場所の特性によって変化するが、浅くても1メートル近く。深い場合は2メートルくらいにまで達する。その掘った溝にチップや竹を入れ、表土部分に廃菌床を浅くすきこむ。チップや竹は溝のなかで発酵していく。

「土のなかを微生物にとってどう快適にするか。微生物は生物です。多くの生物と同じように、生きていくために必要なのは、空気と水と餌。今までの農業は、土づくりが大切だとよく言われていました。けれど、それでは空気が足りていないんですね。深く掘ることによって、空気に触れる表面積を増やしてあげる。掘ったままだと畝が崩れてしまうので、チップを入れる。チップが微生物の餌になるんですね。土の深い部分には、水が多く含まれる層があります。その層と表面を繋げてあげると、表面が乾燥したら層から水分をくみ上げてくれるし、逆に雨が降ればその層まで浸透してくれる。空気、水、餌が十分にある環境なら、微生物は活発に働くし、また微生物が働くことによって野菜の生育も驚くほど早くなるんです」

肥料も加えることなく、水も最小限だけでいい。雑草も少ないという。確かに茅畑さんの畑は、作物は元気に育っているのだけど、雑草がほとんどなかった。土も柔らかかった。溝の部分は、クッションの上に立っているような感覚があった。

「人間の視線を持ち込まないってことが大前提なんです。人間の都合で作業しない。土の都合で人間が動けばいい。そうすると、土が変わってきますよ。人間の考えを畑に持ち込まない。僕らのような畑違いの人間は、先入観がないんですね。これまでの農業では生の木質などの有機物を畑に入れるなんて、絶対にやってはいけないことだと言われていました。生ではなく、肥料化させた有機物を使うというルール。自然のサイクルを考えれば、肥料化させた有機物を混ぜるほうが自然じゃないんですよね。不自然はいいけれど、反自然は間違い。自然の側から、自然の智慧や法則に任せる。そうすれば、微生物が生きる土になるんです。人間と自然は共生するのではなく、人間は自然の一部であるという認識。そして自然界における人間の役割は命のリレーの調整役です」



命が繋がる場所の構築。

茅畑さんが <クルンノウエン> を立ち上げたのは2012年。以降この農法によって、春と秋の作付けと収穫というサイクルで続けているが、あきらかに野菜の生育が早く収量も多くなった。近くの慣行農法の農家に比べると、2倍近くの収量がある野菜もあったという。茅畑さんの目標は、炭素循環農法によってつくられた、安心で美味しい野菜が一般の市場に流通すること。

「究極的な目標は、畑で作物を育てて出荷するということをしない農家になりたいんですね。2013年秋から、ひと畝をひとつのグループに貸して、農業体験をしてもらっています。この個人区画とは別に、ジャガイモやカボチャなど広い面積で育てたほうがいい野菜は共通区画として、みんなで作業する。野菜を育て、土に触れて、自然の仕組みを実感してもらう。みんなで作業すれば、ひとりでやっていれば途方もなく感じられる作業でも、ずっと早く終えることができるわけですから」

福島第一原発の事故以降、熊本は多くの移住者を受け入れてきた。移住を決断した人は食へのこだわりも強い。自分で安心できる野菜をつくりたい。そう思っている人も少なくない。

「震災が起きていなかったら、自分を変えられずにいた方も多かったかもしれません。いい意味で価値観が崩れた。福島原発事故があって、半強制的に動かざるを得ない状況になった。食べ物への意識も、より強くなった方も多いと思います。僕たちは震災前に熊本に移り住んだ。食べ物にもこだわってきました。もしかしたら、震災以降に来る人たちを受け入れるためだったのかな、と思っています」

 <クルンノウエン> の「クルン」は、草も木も動物も人も微生物も、すべてが繋がってクルンと巡ることから命名された。作物を媒介にした命の繋がり。それが <クルンノウエン> が目指している新しいライフスタイルに違いない。


かやはた たかしげ
1974年広島生まれ。日本画家として活動するかたわら広島市立大学で日本画の助手として務めていたものの、身体を壊して離職。奥さんの実家がある熊本県荒尾市に移住した。炭素循環農法に出合い、クルンノウエンを開園。2013年から農業体験者を受け入れている。ひと家族(もしくは1グループ)でひと畝を担当する農業体験。多い人は、年間に100回近くも訪れるという。農園の敷地内にある農園レストラン・カフェアルバーロでは、ライブなどのイベントも開催されている。



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