農と音楽のコミュニティから描く日本の未来スタイル 奈良大介

アグリ(農)

農と音楽のコミュニティから描く日本の未来スタイル 奈良大介

埼玉県中部に位置する都幾川。ここで、音楽家の奈良大介さんが自然農をはじめたのが5年ほど前になる。それぞれの生物が、それぞれの命を全うする畑。自由を許してくれるその畑は奈良さんに生きていく智慧と喜びを与えてくれる。

文・宙野さかな/写真・林 大輔


自然農によって目覚めた自由。

ジャンベとギターを手に、音楽を届ける旅を続けている奈良大介さん。奈良さんが、「食」に関心を持つようになったのは、サヨコオトナラとして精力的に活動をはじめた時期だったという。現在は熊本で農業を営んでいるOTOさんと、イノチの歌を歌ってきたサヨコさんとのユニットであるサヨコオトナラは2004年に結成。サヨコオトナラは、ライブハウスなどでのライブより、自然とともに暮らしている人たちとの繋がりを求めて旅を続けていた。祭り系と呼ばれるオーガニックな雰囲気に包まれたフェスにも数多く出演。そんな場所には、環境や平和に対して強い想いを抱いている人が多く集まっている。当然のように、食への関心も高い。そしてOTOさんとサヨコさんに誘われ、奈良さんは千葉の田んぼで米作りのワークショップに通いはじめた。

「千葉での米作りは4年続きました。少しずつ、農の大切さを感じ取っていったんですね。田んぼや畑に行かなくなったら、逆にどうしてもやりたくなったんですよ」

出逢ったのが埼玉県都幾川の畑。畑とはいうものの、長い間使われていなかったこともあって荒れ放題の場所だった。その土地を開墾することから、奈良さんの新しい土との付き合いがはじまった。

「畑というよりも、ただの原っぱというかフィールドというか。最初に植えたのは麦でした。自然農で育てるのでは、麦は比較的簡単だっていうことと土も肥やすという話を聞いたんですよね。最初は、いつも履いている草履を作っている真ちゃん(寺田真也)と通いはじめたんですよね。真ちゃんが香川に戻ってからはひとりで少しずつ畑を広げていきました。でも畑って、実はとても自由。『ここに何を植えよう』と決めるのは自分だし、そのスペースも自分で決めればいい。丸く植えてもいいし、列で作ってもいい。すごい自由な空間なんです」



生きる智慧を農から学ぶ。


奈良さんが暮らしているのは横浜市。そこから車で都幾川まで2時間程度。ツアーで空いてしまうこともあるけれど、行ける範囲でマイペースで通っているという。

「農業としてやっているわけではないので、そのくらいのペースでも問題ないんですよね。実験的にいろいろなことをやっています。自然農だと、自然が育ててくれる。僕だって農ができているんですから、誰だってやろうと思えば可能なんです。うまく育つこともあれば失敗してしまうこともある。よくないときのほうが『何がいけなかったんだろう?』って考えるじゃないですか。人から聞いたり、本を読んだり。いろんなことを学び、実践していける。自分の畑だと、思いついたことをすぐ実行できるんですよね。枯れ葉を堆肥にしてみようだとか、この場所は草取りもしないでやってみようとか。ウンコをしたっていい(笑)。それが滅茶苦茶おもしろい。草を布団のように敷いておくと、土も柔らかくなるし、水分も補えるんですよね。畑って不思議で、草を刈ったツルツルの状態では、日照りが続くと表面がカラカラに乾いちゃうんだけど、草が生えていると朝露が降りて湿気がたまっていく。雑草と種を蒔いて芽を出した野菜との見分けがつくようになってくるとか、小さなことなんだけど自分にとっては大発見で、その大発見が人間としての智慧に繋がっていっていると思うんです」

都市は自然を遮断して成立しているのかもしれない。特に東京をはじめ、日本の大都市で暮らしていると、自然を感じることはほとんどない。自然を感じないようにしているから、自然に怯えている。生きていくことで獲得していた智慧を見失っている。

「百姓は百の智慧を持っている、と言われているじゃないですか。ちょっとずつでも知らないことを学んでいく。それが大切だと思っています。そうそう、去年から種を穫りはじめました。育てて食べて終わりじゃなくて、種から種までがワンサイクルだっていうことを、日々学んでいます」

畑にいると、自分が元気になっていくのがわかるという。奈良さんにとって、心の健康の礎が自分の畑にあるのだろう。

玉蜀黍、葱、大豆、茄子、唐辛子、菊芋、大蒜、生姜、アピオス…。蜜蜂もいる。それぞれの生物が、自分の命を全うし、次に命を繋いでいく。そこには共存共栄の宇宙が存在している。

「最近、畑に裸足で入ったら、本当に気持ちよかったんですね。今までは天からしか受け取っていなかったのに、下からもエネルギーを感じて、地面の理解度が数段上がったんです。僕は土に対して、いいことをしようとしている。その想いを返してもらっているのかもしれませんね」



農を核にするコミュニティ。

奈良さんは、友人とふたりで都幾川で畑をはじめた。通ううちに、顔見知りができ、少しずつ仲間が増えていったという。現在では音楽好きの仲間たちと〈ときがわ百姓ジャンベひろば〉というチームを結成し、ジャンベのワークショップやライブを行っている。〈ときがわ百姓ジャンベひろば〉は、日比谷公園で秋に開催されている〈土と平和の祭典〉などに出演も果たしている。

「昔から住んでいる地元の人と移り住んできた人が、うまく混じっているんですよね。農や音楽で繋がるコミュニティ。今は、全国でそれが生まれてきてます」

都幾川だけではなく、山梨、和歌山、奈良、岡山、熊本…。いろんな場所に、オーガニックな繋がりのコミュニティが誕生しているという。奈良さんは、そんなコミュニティが形成された場所に赴き、音楽を奏で、農を手伝っている。

「働くということは、『端を楽にする』が語源だったという説もあります。端にいる人を楽にしてあげること。困っている人がいたら助けてあげる。こういうコミュニティでは、ニュースとか新聞とかの情報さえなければ、滅茶苦茶平和だし、みんな笑顔だし、疲れていないし活き活きしている。子どもも元気。それが現実だと思うんですね。ひとりでやろうと思うと、大変なことが多いと思います。でも今は、入り込んでいくちょっとした勇気さえあれば、どこにでもそんなコミュニティが存在している。畑はひとりでやっているけれど、田んぼは4人でやっています。受け入れてくれる人は必ずいる。僕だって、特別に勇気があったわけじゃないんです。いい加減な人間だし、テキトーを絵に描いたような男なんだけど、畑を続けているうちに楽しくなった。農と音楽のコミュニティは、経済が優先ではないんです。楽しむことと生きることが何よりも大切にされる。それを『オーガニックライフ』と呼ぶのなら、『オーガニックライフ』を実践している人が、ずいぶん増えてきています。3・11以降、それに気づいた人が多い。だから僕は、今は希望しかないと思っています」

自然を味方にする生き方。それを、奈良さんは都幾川の自分の畑で見つけたに違いない。そして奈良さんだけではなく、多くの人がその生き方こそ人間本来の豊かな暮らしであると感じ取っている。


profile ならだいすけ
高校2年からバンドをスタート。20代前半にボブ・マーリーの音楽に出逢い、ラスタファリズムに心酔していく。と同時に太鼓にも興味を持ちはじめた。やっほーバンド、PJアコースティックスタイル、サヨコオトナラ、朝崎郁恵(奄美島唄)、マブリなどで活動。現在では打楽器だけではなく、ギターや三線を手に唄も歌いはじめ、ソロで全国各地のオーガニックな場所でライブを続けている。
CD 『ぼくらは今日もみつ蜂のようだ』
2012年にリリースされた初ソロアルバム。唄、太鼓、弦…。ゆるやかなリズムのなか、旅や農によって育まれた地球への愛に満ちたメッセージが放たれている。ジャケットの絵を描いたのも奈良さん。ライブ会場などで販売されている。


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