文・Lj編集部/写真・依田恭司郎
アウトドアウェアをコンセプトに。
–– 仕事としてファッションに関わりはじめたのはいつだったのですか。
相澤 大学ではファッションを学んでいなかったし、ファッションを仕事にするという考えは持っていませんでした。卒業するまで、将来何をやりたいのかっていうのがわからなくて。美大のテキスタイルデザイン科でしたから、染色したり生地をつくったりしたかったんです。そこで <コムデギャルソン> に入社してはじめてファッションで生きて行こうと思いました。
–– <ギャルソン> で仕事をしながら、ファッションへの関心が強まっていったのですね。
相澤 仕事をしながら、すべてを覚えていきました。おもしろいと思えることも、大変だなって感じることも。 <ギャルソン> をやめて、自分で服づくりをはじめてみたら、さらにおもしろくなってきたんです。やりたいこともどんどん拡がっていった。
–– そして <ホワイトマウンテニアリング> を立ち上げた。
相澤 2006年の秋冬シーズンにスタートしました。
–– ブランドのコンセプトは、立ち上げ当時から変わらずに?
相澤 アウトドアウェアをファッションにしていこう。それがスタートしたときから変わらないコンセプトです。アウトドアも好きだったし、アウトドアウェアも好き。シーズンコンセプトを変えながら、思い描いたものをつくっています。ただ、フェイクにはしたくないと思っています。アウトドアウェアというものを理解して、それを生かしたものづくりをしたい。遊びのなかから視点が見つかることも少なくないです。
–– 例えば、2015年の春夏シーズンのテーマはどういったものですか。
相澤 「ネイバルホリディ」というテーマです。「海軍の休日」。第一次世界大戦のときに「戦わない日」という協定が設定されたそうなんです。それが「ネイバルホリディ」。この言葉にインスピレーションを受けてつくっていく。ミリタリーウェアとアウトドアウェアの接点って、ものすごく大きいじゃないですか。思想的なものではなくて、その合致点からテーマを探っていく。自分たちのアウトドアウェアを、海辺や川などの自然の近くで使うにはどういうスタイルがいいのか。そんなことを考えています。

デザイナーとしてのポジション。
–– 自身のブランド <WM> を続ける一方で、デザイナーとして <モンクレール>、 <バートン>、 <パーマネントユニオン>、 <バブアー> など、数々のアウトドアブランドに参加しています。
相澤 <WM> が僕にとって中心になければなりません。 <WM> の存在自体の意味を高めていかなければ、他と組んでもおもしろくないです。
–– 他のブランドに参加する際、心がけていることとは?
相澤 自分たちだけが独りよがりするコラボレーションはしたくないんです。相手が何を求めているのかを理解してからスタートしています。もともと相手が持っているアーカイブや知識を、自分のデザインやアイデアにミックスしていく。
–– 逆に、他のブランドを手がけることで、自分のブランドも俯瞰して見えるのではないですか。
相澤 かつては「こうじゃなきゃいけない」という思いが強かったのかもしれないですね。それがなくなってきたというか薄くなってきたというか。いろんなものを見て吸収したいという考えのほうが大きくなっています。素材、カラーリング、デザインの考え方…。他のブランドのデザインを手がけることによって、 <WM> がやりやすくなっています。もっとカジュアルにしてもいいのではないかと、今度は引き算してみようかとか。
––– より <WM> を整理して考えられるようになるということですか。
相澤 シンプルなものって受け入れられやすいと思います。けれど、生活のなかでのシンプルさとデザインのクオリティとしてのシンプルさは違う。マキシマムを知ってからじゃないと、そこから引くことはできないわけですし。今はちょうど引き算をはじめているところなんです。すごくこだわる部分とリアルなもののバランスをより考えるようになりましたね。

ファッションの未来。
–– 大き過ぎる質問になってしまうけれど、ファッションとはどういう存在ですか?
相澤 ファッションってなんなんですかね(笑)。リアリティのある仕事。デザイナーって呼ばれる仕事は、ファッション以外に数多く存在しています。例えばプロダクトやグラフィック。ほとんどの場合、仕事を発注してくれるクライアントがいる。けれど自分でブランドを立ち上げた場合はクライアントがいないんです。僕の考えとしては、好きにやっていいんだけど、独りよがりになってはいけないと思っています。コミュニケーションをとりながら自発的にものをつくっていく。そのことを考えると、ミュージシャンに近いのかもしれません。好きな部分を表現しつつ、聴いてもらうことも頭のどこかには置いておかなければならない。音楽をやっていても、ファッションをやっていても、一番の目標は、その好きなことをやって成り立つこと。長く好きなことを続けること。売れることだけを目的につくっているわけじゃないけれど、自己満足で終わってもダメだし…。ちゃんとお金を払ってでも欲しいと思ってもらえるものづくり。CDでもライブでも同じだと思います。その境界線ってどこにあるのか。それをずっと探しているような気がします。この数年で、本当にいろんな経験をさせてもらっています。経験したことによって、自分の服づくりも見えてきています。
–– <WM> は海外へも発信していますね。
相澤 アジア、ロシアやナイジェリアでも扱ってくれるショップがあるんです。洋服って着ていることで勝手にコミュニケーションしてくれる。代官山でつくり、発信された服が、自分たちの想像を超えた場所でコミュニケーションの一躍を担っている。それってものすごくロマンがあるじゃないですか。
–– 今後、ファッションはどうなっていくと思いますか。
相澤 理想を言えば、洋服づくりというものに対して、しっかりとした哲学を持っているものだけが生き残ってほしい。現実的に言えば、iTunes化していくというか、ブランドとしてのストーリーやデザイナーの哲学よりも、ひとつのアイテムとしての動き方になっていくんじゃないかと思っています。そのことを否定的に捉えるのではなく、よりポジティブに。 <コムデギャルソン> に入ってから15年、 <WM> をはじめて来年で10年。ファッションはライフワークですし、好きだから続けている。好きだからこそちゃんとビジネスにしたいって思っています。

PROFILE
White Mountaineering 相澤陽介
「服を着るフィールドはすべてアウトドア」をコンセプトに、2006年に <White Mountaineering> をスタート。2011年からはアメリカ・ニューヨークで、2013年からはイタリア・ミラノで展示会を行なっている。2014年に「White Mountaineering SHOP」を代官山に移転オープン。 <モンクレール> <バートン> <パーマネントユニオン> <バブアー> などのデザインも手掛けている。
Lj38