ポジティブなメッセージを、削ぎ落した言葉で伝える未来。GAKU-MC

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ポジティブなメッセージを、削ぎ落した言葉で伝える未来。GAKU-MC

ヒップホップのMCとして、言葉を積むことに情熱をかけていた時代。そしてギターを手に、言葉を削ぎ落している現在。MCからシンガーへと歩む道が変わっていくなかで、フィールドも野外へ移行していった。野外フェスで、そして火を灯すアカリトライブで、GAKU-MCのポジティブなハートは伝えられていく。

文・宙野さかな/写真・須古 恵

言葉を積むラップと弾く歌。

− GAKUさんは、多くの人が持つ印象はヒップホップMCだと思います。一方、ここ数年はソロシンガーとして野外フェスにも数多く出演なさっています。
GAKU-MC サッカーを挫折したときにラップに出逢ったんです。ラップこそ男らしい音楽だと感じ、黒人音楽に憧れていたんですね。そしてEAST ENDとして活動していき、世に出ていくことになりました。
− どんなきっかけで、MCから歌へ移行していったのでしょうか。
G ラップを多くの人に広めたい、多くの人にヒップホップを楽しんでもらいたい。そんな気持ちでEAST ENDを続けていたんですが、いったん落ち着いたときに、その目的はある程度達成できたかな、と思ったんですね。僕らがやってきた音楽は「オレ」という主語でした。「僕」という一人称で音楽をやっていきたいなという気持ちが頭のどこかに生まれてきて。それが少しずつ大きくなっていったんですね。個人の内面的なものを、もっと表現したくなったんです。そしてギターをはじめて買った。
− なぜギターだったのですか。
G なんでもよかったんですけどね。とにかくひとりでできて、ステージで完結できるのはギターかピアノだと思って。管楽器じゃ歌えないし、ピアノは移動するのが大変そうだし。ウクレレじゃちょっと…なんて考えていったら、ギターが残ったんです。2006年のことです。櫻井和寿と「手を出すな !」というシングルを出すことになって、このシングルの発売日に買ったんですよ。
− ギターを手にしての歌とラップ。表現方法として「僕」と「オレ」以外にも変わった部分があると思います。
G 見える景色も変わってきました。ラップでは、言葉を詰めることを重要視していました。ラッパーとしてどこまで言葉を積み上げられるか。ギターを弾くようになってからは間引いてもいいかなと思えるようになりました。空間を作ること。それはどんどん引いていく作業になる。



アカリトライブで繋ぐもの。

− 東日本大震災以降、〈アカリトライブ〉というイベントを行っています。はじめたきっかけを教えてもらえませんか。
G 震災のすぐ後に、〈ap bank〉のスタッフから「石巻へボランティアに行くけれど、参加できる人はいませんか」と誘われたんです。行ったら、ミュージシャンとしてできることはほとんどなくて、泥かきや炊き出しをしていました。そして春が終わる頃に、音楽家として積み上げてきたことで何か貢献できることはないかなと思うようになったんですね。たまたま、キャンドルをテーマにした僕の曲をラジオで聞いたというキャンドルメーカーの方が、「一緒に何かやれないか」とメールしてきて。そこから、キャンドルを灯してそのアカリでライブを行う〈アカリトライブ〉のアイデアが生まれていったんです。
− 2011年は、六本木をスタートして全国を巡りました。
G 来場してもらった人に、キャンドルホルダーにメッセージを書いてもらって。キャンピングカーを借りて、北海道から九州まで降りていって、最終的には福島へ。「頑張れ」に変わる言葉を全国のみなさんに書いてもらって、それを福島の競馬場の真ん中にドーンと並べて、持って帰ってもらいました。
− 2012年には野外フェスのキャンプサイトで〈アカリトライブ〉を行ったとか。
G はい。あの震災のことを忘れないためにも、違う場所で、違う方法でやりたいなって思ったんです。3年が経過した今年は、小学校を会場にしたいと思っています。ライブをするだけではなく、ライブが終わったら学校の体育館でみんなで寝る。日本では、どこに住んでいても地震の可能性がある。そんな日が来ないほうがいいに決まっているのだけど、ある意味予行演習のような形になれば…。
− 小学校を会場にすることによって、その地域でのコミュニケーションも生まれるような気がします。
G じいちゃんやばあちゃん、子どもがいる家族、そして若者。その地域に暮らすみんなが一緒になれる場所を作って、ライブをやって、その後は近所のみなさんに参加してもらって炊き出しを一緒にやる。まだ実現可能かどうかわからないのですけど、そんな〈アカリトライブキャンプ〉をやりたいなと思っています。
− 自然災害のときこそ、コミュニティの繋がりが大切だと思います。みんなが協力することによって、みんなが助けられる。
G 灯りと歌で地域がひとつになるみたいなことをやりたいなと思っています。自分が楽しんで続けてきた音楽が、ちょっとでも誰かのためになるのなら、それが一番うれしいことなんですね。きれいごとに聞こえるかもしれないけど、そういうふうに思って音楽をやっていると、より音楽が楽しめるようになる。



− 11月に行われるアリゾナ州セドナでの〈アカリトライブ〉は、クラウドファンディングで募集されましたね。
G メンバーを募集して参加費をもらうというスタイルよりも、意味があるんじゃないかなって思って、クラウドファンディングにトライしてみました。自分が現地へ行けなくても、参加することは可能です。みんなで作り上げるイベント。セドナには世界中から観光客がいっぱい来るだろうから、その人たちにも見てもらいたいですね。そして僕たちがなぜ〈アカリトライブ〉をやっているのかを、見た人たちが世界に拡散していく。そうなったら素敵じゃないですか。
− この春に初のベストアルバムがリリースされました。
G 未来へ向かって新しい曲を作っていく覚悟ができたのかもしれないですね。ここで一回線を引いておくか、みたいな。
− 今後は、どんな歌を歌っていきたいですか。
G とにかく歌はずっと続けていきたくて。ただ作詞は難しいですね(笑)。「これ、同じようなことを言っている」みたいなことも多くて。アンテナを張って、自分の胸の奥を掘っていくしかないと思っています。
− 例えばセドナでの体験などを通して、新しい言葉が出てくるような気がします。
G それこそ、野外フェスに出るようになって作られた曲もいっぱいありますよ。例えば「五風十雨」という曲。5日ごとに風が吹いて、10日ごとに雨が降るのがちょうどいいみたいなことなんですけど、雨だからこその体験ってのもあるじゃないですか。そういう気持ちを知ったからこそ書けた曲なんですね。
− GAKUさんの歌はポジティブなものが多いですね。
G 前を向いていこうぜ、みたいなところが、ヒップホップの好きな部分だったんですね。それが今も繋がっている。僕の曲を聞いて、ひとりでも多くの人がポジティブな気持ちになってくれたら本当に幸せです。


GAKU-MC
ヒップホップユニット、EAST ENDのMCとしてブレイク。櫻井和寿との「手を出すな!」のリリースとともに、ギターを手にした。2011年、被災地のためにミュージシャンとして何ができるのかを考え、キャンドルの灯と音楽と全国でリレーして、各地からメッセージを届けるプロジェクトを実施。翌年から「キャンドルの灯と音楽で心を繋ごう」をテーマに〈アカリトライブ〉を立ち上げ、野外フェスで灯りとアコースティックのライブを実施。今年、ソロ活動15年を迎え、初のベストアルバム『THE BEST GRADATION』をリリースした。櫻井和寿とのウカスカジーでファーストアルバム『AMIGO』を発表。収録曲の「勝利の笑みを君と」は日本サッカー協会公認のサッカー代表応援ソング。
www.gaku-mc.net

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  Lj 35号(2014.6.27)

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