自給自足自廃のすすめ  THE FAMILY

オーガニック&エコロジー

自給自足自廃のすすめ THE FAMILY

北カリフォルニアで出逢った地球と共生する暮らしをきっかけに、27年前に京都府で自給自足をはじめた村本敏・さゆりさんご夫妻。自然や農を学びながらの毎日。3人の子どもとの教育の一貫との想いから、家族でバンドTHE FAMILYをはじめた。5年前に、京都府舞鶴市の限界集落に移住。地球に優しい暮らしを続けている。

文・宙野さかな/写真・林 大輔

地球と共生する暮らし

京都府北部にある舞鶴市。舞鶴と宮津を結ぶ府道から、車がやっとすれ違うことができる細い道を数キロ入った場所に長谷という小さな集落がある。バスも通っていない限界集落。ここにTHE FAMILYが引っ越してきたのは2009年の秋だった。THE FAMILYは村本敏さんとさゆりさんご夫妻に、長男のMYUさん、長女のRAYさん、次女のAMAさんからなる家族で構成されたバンドだ。

20年以上にわたって、京都府日吉町の古民家を借り、自給自足の暮らしをしてきた村本さん一家。その家を離れなければならないことになり、大きな自然の力に導かれるように出逢ったのが、建ってから100年以上も経過している今の住まいだった。

村本さんご夫妻が、地球に優しい暮らしをはじめたのは、アメリカの北カリフォルニアの雄大な自然のなかで生きているある家族との出逢いとそこでの体験が大きなきっかけだったという。

「何日か一緒に過ごすことによって、とにかく、地球と共生する暮らしをやればいいんだって思ったんです」とさゆりさん。

「自給自足の暮らしをはじめたのは28年前。当時は農家で生まれたとしても農業を辞めて、男は外に勤めに行くという価値観が蔓延していました。僕らのアプローチはまるっきり逆でしたから、きちがい沙汰のように、周りの人からは思われていましたよ」と敏さん。

自分の食べるものを自分で育てる。そのシンプルな日常が、異常と受け取られてしまっていた時代。バブルと呼ばれた80年代後半。いつまでも右肩上がりだと多くの人が信じていた時流にあって、生きることの本質を、自分たちの暮らしで実践していた人たちも少なからずいた。

「生きていくためには、食べることが基本です。それにまつわるいろいろなことを滞りなくできることが、人間としてもっともまっとうな暮らしだと思うんです。それ以外のことって、いわゆる職業ですよね。職業はお金を稼ぐことですから、生きるための基本ではないんですね。食べることに対して労働をする。無理して食を切り詰め、変なものを食べるよりも、健康な暮らしをしたいと思って、この生活をはじめたんです」と敏さん。

「ふたり目の子どもがお腹にいるとき、ほとんど自給できていたんですね。それまでになかった安心感があったんですよ。妊娠中でも安心できるものを食べている。お百姓さんじゃなかった私たちでさえ、土地があればできること。みんないろんな役割があるけど、食べるものさえ作っておけば、心の余裕がすごくあるんですよね」とさゆりさん。


築100年以上の古民家。住まいの北側に位置するいわゆる裏庭に小川が流れ、自然農で野菜を育てている。ピースマークの茅の輪は知人が作ってくれたもの。一時期、ライブに茅の輪も持参して、ステージのデコレーションとしていたという。

百のコモンセンスよりひとつの個性を

生きる基本となる食を自分たちで自給する。「田畑で自分の食べ物を育てながら古い家に暮らす。歩く度に仕事があるんですね。お金にならない動きをしながら、家というものを学びながら、暮らしというものを学びながら、子どもと共に育ちながら」(敏さん)の毎日は、その言葉通り、学びの連続だったのだろう。その暮らしが軌道に乗った村本さん夫妻は、お子さんたちを学校へ通わせず、ホームスクーリングすることにしたという。

「百のコモンセンスよりも、ひとつの個性を大事にしたかったんです。自分の個性をちゃんと維持できることが、これからの世の中には大切なんじゃないかと…」と敏さん。

そして子どもたちとの教育の一貫になるという想いを抱き、THE FAMILYは結成された。2000年12月のことだ。MYUさんは、小学校を卒業する年齢になっていた。

「僕自身、音楽をやれることで、すごく人生の得になった。いろんな人とも繋がることができた。音楽という自転車に乗れるようにしてあげたかったんですよね。音楽という自転車を、見ているんじゃなくて実際に乗る。乗れれば、どこへでも行くことができる。音楽があることで、生まれてきたことを謳歌できる。それを子どもたちにも味わってほしかったんです」と敏さん。

「学校からは不登校児という扱いです。不登校児のほとんどは、途中で行かなくなるんだけど、うちの場合は最初から行っていない。だから子どもたちは、未だに理想の学校というものを自分なりに描いているのかもしれませんね。でも学校へ行っていたら、THE FAMILYを一緒にやることはなかったと思います。バンドをやることで、子どもたちがいろんな人と交わる機会が増える。暮らしのなかで感じたことを歌で伝えながら、子どもたちも成長できるのなら、素晴らしいことだなって」とさゆりさん。


(左)糞尿を集めてバイオガスを作っている。臭い匂いはほとんどしない。(中)「ターボワイター」という名前が付いた薪の給湯器。昭和30年代のものらしいが、製造した会社はすでに存在していない。(右)下肥から菌の力によってメタンガスを発酵させている。20人分の糞尿で、4人分をまかなうことができるという。液肥は野菜の肥料として使用している。ガスストーブも、敏さんのお手製のもの。

薪の給湯器とバイオガス

今の舞鶴に居をかまえてから、地球と共生する暮らしは、さらに一歩進んだ。薪を燃やす給湯器と自分たちの糞尿を利用したバイオガスを、自分たちの暮らしに取り入れていった。

「自給自足をはじめたとき、気になったことのひとつが自廃できるかどうか。自分たちが生きていくなかで発生したものを、ゴミとして捨てないこと。水洗トイレのように自分たちのウンコを捨てないというのもひとつの目標でした。京都市は、下肥(こやし)を自分で汲んで畑にやるということを条例で禁止しています。せっかく自然が飲めるほどにグレードを上げてくれた水を、一瞬にしてゴミというか飲めない汚物にしてしまう水洗システムに疑問を持っていました。バイオガスは、もっとも有効な形で、私たちの排泄物を利用することができるんですよ」と敏さん。

自給自足とは、「自らが必要とするものを自ら生み出すこと」。村本さん夫妻は、そこに自廃という出口を設け、地球と共生する道を歩んでいる。

バイオガスは、ガスというエネルギーとともに、有機肥料という恩恵ももたらしてくれている。菌で発酵された下肥は、おどろくほどに悪臭がない。しかも液肥なので、畑に撒くだけでいいという。

「下肥だと、土のなかに埋めるという作業をしないと不衛生なんです。しかも、やっぱり臭い。液肥は土に沈んでいく。労力がすごく軽減されましたよ。ミミズに近づきたかったんですね。ミミズは地球で一番優しい生き物だと思います。汚い老廃物を食べて、土をウンコとして出して地球を肥やしてくれている。できれば僕ら人間も、それに近い存在になれたら。地球を汚すだけではなく、少しでもきれいにしてあげられないかなって」と敏さん。


(右上)米を作っている田んぼは一反三畝。主に作っているのは中生新千本(なかてしんせんぼん)。その他に、福岡正信さんが作ったハッピーヒル、黒米なども育てている。手植え手刈り。肥料は入れず、糠で除草をしているという。(左上)熱効率のいいロケットストーブ。これも敏さんの手作り。(右下)このコーンを鍋でいるとポップコーンになる。(左下)ハスクトマトは、トマトというよりもベリー類のような酸味と甘味がミックスした味。「無理をしないで、できる範囲でやっていくことが長く続ける秘訣」とさゆりさん。

長谷に移り住んで、THE FAMILYとしての活動は、やや少なくなっているという。それでも年間に50本程度はライブをやっているそうだ。少なくしている理由は、この地にいっときも早くグランディングしたいという想いからに他ならない。

「日本は美しい国です。こんな恵まれた国におって、地球の一番おいしいところに住んでおって、それを享受しないで、別の方向に向かっているということ自体が、変だと思っています。僕たちは美しい地球のありがたみを知っている人間なんですから、それを他の人や他の国の人に伝えていくことが当然なんですけど…。幸せになる方法を先に知ったのだから、それを伝えることは、地球を汚してきた償いになるんやないかという気持ちで、音楽と農業を続け、自給という道を歩んでいるんです」と敏さん。

さゆりさんのこんな言葉が忘れられない。「私たちは農業をやりたいのでなはく、百姓をやりたいんです」。自らが必要とするものを自ら生み出し、自ら利用すること。自給自足自廃。地球の恩恵を受けながら、地球に感謝する。そんな暮らし方を、村本さん家族は長く続けている。


profile THE FAMILY
村本敏さんとさゆりさんご夫妻が、京都府日吉町の古民家を借り、自給自足の暮らしをはじめたのが27年前。ホームスクーリングで、3人の子どもたち(MYUさん、RAYさん、AMAさん)と共に、学びながら地球に優しい暮らしを実践していった。2000年にTHE FAMILYを結成。地球に生きる喜びと感謝を伝えるために、各地のイベントや祭りなどでライブを続けている。

This is a family
2003年秋にリリースされたファーストアルバム。アコースティックなサウンドをバックに、心地良いハーモニーが響く。心に残るメロディと歌詞も特徴的。2010年にはセカンドアルバム『world is a family〜世界は家族』を発表。RAYさんとAMAさんの姉妹ユニットでも、ミニアルバムを発表している。

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