土着菌による発酵。土だけではなく、肥料や農薬も手作り。松沼憲治 松沼農園

オーガニック&エコロジー

土着菌による発酵。土だけではなく、肥料や農薬も手作り。松沼憲治 松沼農園

肥料や農薬も、自然の恵みを発酵させて作る。そして土も発酵させる。その農法は、「代々やってきたことを続けているだけ」。豊かな土を作ることは、おいしい野菜を育てること。そして人間の心と身体を育むこと。

文・宙野さかな/写真・依田恭司郎

茨城県西部の総和町(現在は合併し古河市)は、利根川北岸の台地を利用し、古くからお米や野菜の生産が盛んな農村地帯だ。

この地で、何代にもわたって農業を営んでいるのが松沼憲治さん。昭和27年に地元の高校を卒業して就農。以来、60年にわたってこの地で農業を続けている。



「親の代からやっていたことを続けている」と話す松沼さんは、肥料や食物農薬を自分で作り、土も発酵させる農法を、頑に守り続けている。

「肥料には地域で得られるモミガラや米ヌカなどの有機物資源を使っています。山林や農地にもともと住んでいる土着の微生物、いわゆる土着菌に活躍してもらって、モミガラや米ヌカを発酵させることによって肥料にしているんですよ。お酒だって味噌だって、発酵させることによって素材以上のものができるわけですからね。人間にとって、発酵食品は美味しくて消化しやすいものになる。だから野菜の肥料もそういうもののほうがいいんじゃないかと思ってね。私が農業をはじめた頃は化学肥料の値段が高かったから、代々やっていたことをしただけですよ」



特に夏場は、農薬を使わなければ「買ってもらえる」野菜を作ることは難しいと松沼さん。けれど安全のことを考えると、市販されている化学農薬をあまり使いたくはない。葉面の散布剤や除草剤といった食物農薬を自分で作り、それを使う。松沼さんにとっては、それがごく当たり前の自分の農業だったに違いない。

「安全性でもっとも問題になる農薬は、モミガラクン炭を焼く際にモミ酢を取り、植物に付いている酵素を使った黒砂糖発酵液を使っています」



肥料や食物農薬だけではく、野菜作りの土台と言える土も発酵させる。ワラや木の葉を発酵させて土の温度を上げる。その発酵熱を利用して、ビニールハウスの中を暖めていく。発酵によって微生物が増えた土は、土としての力も大きくなっていったのだろう。

「一番早く建てたビニールハウスは50年以上になります。ずっとキュウリを年に2回作っています。収穫し終わったら、茎や葉っぱも全部土に埋めて耕す。人間って、身の回りで穫れたものを食べながら進化したんですよね。何千年か何万年か知らないけど、ずっとそうしていた。人間もそうなのだから、植物も同じ。それが戦後になって、アメリカの牛肉とか大豆とか輸入されるようになった。よそ様の遠くで生きてきた微生物ではなく、近くにいる微生物のほうがいいんじゃないか。自然のサイクルのなかにあるのではないか。そんな考えでずっとやってきたんですよ」

ウリ科のキュウリは連作障害を起こしやすいと言われている。けれど50年近くにわたって、キュウリを作り続けているビニールハウスでは、極端に不作になった年はないという。

「まったくダメっていうのは失敗なんですよ。その意味において、連作障害は多少あると思います。ただ土を発酵させているからなのか、50年間雨が降ったことがないわりには、うちの土は柔らかいですね。よそ様のビニールハウスの土がどうなっているのか、私はよくわからないけど、30年〜40年も続けていると塩がふいているっていうそうです」



土、肥料、農薬。地域に息づいていた微生物の力を利用して、発酵させることによって、野菜も育てていく。松沼さんのビニールハウスの土は、50年の間に30センチほど高くなった。園芸店で売っているようなそれほど硬くない支柱を土にズブズブ指していくと、私の力でも簡単に1メートル以上深くまで到達することができる。松沼さんは「土を耕すのは耕耘機ではなく、微生物なんですよ」と言う。

野菜にとっても身土不二が当てはまる。そんなことを松沼さんは、自分の農法によって伝えてくれている。



『実際家が語る 発酵利用の減農薬・有機栽培』
50年以上にわたって松沼さんが実践してきた土の発酵や、肥料や農薬の発酵を一冊にまとめたのが本書。松沼農園は「有機」を謳っていないものの、有機栽培の基本は「土作り」にあることが再確認できる。ビニールハウスでキュウリだけではなく、露地でのキャベツ、ジャガイモなどの生産方法も紹介している。
http://kwne.jp/~matsunuma

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