命や宇宙に想いを寄せて作る料理。藤村 節

オーガニック&エコロジー

命や宇宙に想いを寄せて作る料理。藤村 節

何気なく食べた料理が後になって、ああまた食べたいなと、夢にまで見ることがある。藤村節さんが作る料理もそんな料理だ。藤村節さんは、『88』の11号から20号まで、誌面にレシピを提供してくれていた。お出汁トマト、里いものすり身揚げ……。シンプルだけどおいしい、それがセツさんの料理だ。

文=甲藤麻美/写真=片岡一史


すべてはつながっている。

かつて『88』に「セツ」という名前で料理のレシピを連載してくれていた料理人、藤村節さん。もともとは地元大阪でヘアメイクやスタイリストの仕事をしていたセツさんが、「食」に興味をもったのは26歳で行ったインドの旅がきっかけだった。

「70年代はヒッピーカルチャーがあって、旅に出るのがテーマみたいな流れがあったのね。まわりの友達に影響を受けて、私もインドに行ったの。インドにある日本のお寺にお世話になったり、インドやチベットへの旅を通して、『生きるって何だろう?』ってことを考えさせられて。すぐに帰る予定が、1年近くの旅になっていたのよ」

この旅のなかでそれまでの価値観が変わり、食や精神世界に興味を持つようになったというセツさん。帰国後、宇宙や地球、生命誕生などの根源を探り始めた。

「幾何学や古代文明なんかにハマってしまって、勉強していた時期があったの。そうしたら、この宇宙にはひとつの法則、原理があることがわかった。宇宙にも、人間の身体にも、食材のなかにも、同じ幾何学的な仕組みがあって、すべてがこの原理につながっていることに気づかされたんです」

かつてセツさんから「大根や人参やオクラなど、野菜を輪切りにすると、その切り口にハッとすることがある」と聞かされて驚いたことがある。自分はそんな風に野菜を見たことがなかったからだ。セツさんはその切り口に、宇宙と私たちの身体、食材など、すべての命のつながりを見ていた。「わかりやすいから」と言って見せてくれたノートには、原子の構造から銀河系、精子や卵子の細胞分裂、そして聖幾何学の法則が元になっているという古代遺跡やピラミッドなどのさまざまな図形がビッチリと書き記されていた。



プロとしてのスタート。

今から12年前、セツさんは古くからの友人に声をかけられ、東京にある料理店の厨房をまかされるようになった。

「昔はうちにいろんな人が来て、料理を出していたの。出すものといえば普通の家庭料理なんだけど、喜んでもらえたんでしょうね。それがきっかけで店で家庭料理を出してほしいと言われて。『エッ料理? できるのかな?』って、びっくりしましたよ」

30代の頃には自然食やマクロビオティックについても勉強していたセツさんだったが、プロとして料理を出した経験はなかった。それでも自身を「器用貧乏」と表現するように、やるとなったら手は抜けない性格だ。

「私が入る以前は調味料にしても食材にしても、一般的なものを使っていたのね。でも私は自分が嫌なのに、お客さんに添加物とか、そういうものを出すのが嫌だったのよ。それはこだわりでもなんでもなくて、人に食べさせるなら当然、おいしくて自然なものを食べさせてあげたいじゃない」

すべては無理でも、野菜は極力無農薬のものを。調味料はすべて無添加で自然な発酵調味料を。以来12年間、この店ではそんなセツさんの家庭料理を提供し、常連さんでいつも賑わっている。



身体を動かしているもの。

「家庭では毎日のことになるから特にそうなのかもしれないけれど、料理を作って出すというのは、おおげさかもしれないけど、一時は人の身体を預かるということになるわけじゃない?だから調味料や食材も身体が喜ぶものをなるべく使いたいし、まずは『お客さんが食べるんだ』という心遣いが大切。料理人にはその責任があると思うの。そして何を選んで食べるのかは、食べる人の責任でもある。でもね、最終的に身体を動かしてくれているのはやっぱり自分たちの力ではないのよ」

食べ物を消化したり、栄養を全身にいき渡らせたりすること。この働きは、私たちが意図してできることではない。だからときどきは、そうした命の原理、身体の「元」の部分を感じ、感謝の気持ちを心掛けたいとセツさんは言う。

人間のできることは小さい。セツさんは生命観や宇宙観にまで想いを寄せることで、謙虚な気持ちのまま、厨房に立っている。




profile 藤村 節
大阪生まれ。ヘアメイク、スタイリストを経て1974年渡英。ロンドンに2年間滞在した後、インド、ネパール、チベットを旅して1978年に帰国。現在、東京にある某店で、料理人として食の魅力を伝えている。

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  88 33号(2013.3.29)

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