縄文スピリットを探して  第1回 自然のもつ2つの顔

オーガニック&エコロジー

縄文スピリットを探して  第1回 自然のもつ2つの顔


文=草刈朋子/写真=廣川慶明

夏の終わりに世界遺産の白川郷に行ったときのこと。世界遺産地区の荻町でいちばん大きな合掌造りの2層目で農具や民具などの郷土資料を眺めていると、古びたガラス製のショーケースの中におなじみのものを見つけた。縄文土器のカケラである。この土地で縄文土器が出ていることは事前に調べて知っていたが、こうして不意に目の前にすると古い友人に再会したような気持ちになる。

灰色味を帯びた土器のカケラは、前に金沢や能登で見た土器の色とよく似ている。文様を見ると、縄文時代の前期から中期(4000年〜3000年前)頃のもののように見えた。古びた紙箱に無造作に入れられているので、畑などから出てきたものだろうか。いずれにせよ土器のカケラは、縄文時代にこの地に人が住んでいたことを物語るのである。

外に出て明るい日差しの中を歩いていると、田んぼの脇の用水路にはとうとうと水が流れ、太ったニジマスが何匹も泳ぐ姿を目にした。山肌にブナやナラなどの落葉広葉樹林が広がる白川郷は、白山水系の伏流水が湧き出る水の豊かな土地で、いかにも縄文人が好みそうだと思った。

水道をひねれば水が出る暮らしに慣れていると、ついそのありがたみを忘れがちなのだけれど、人間は水がなければ生きていけない。だから縄文時代の集落跡というのは泉を伴う場合が多い。東京でいえば、多摩川に沿った崖線の上などはまさに好適地。実際、縄文時代の遺跡も数多く、等々力渓谷のように今なお水が湧いているところもある。

ちなみに縄文時代の人びとは安全な高台に住んでいた。水が湧く場所というのは下に川がある。白川郷にも下に一級河川の庄川が流れていて聞けばやはり暴れ川。ご存知のように川は氾濫する。9月に起こった鬼怒川の氾濫は、強大な水の力を思い知らされた出来事だった。

日本に限らず世界の文明というのは、水をいかにコントロールするかということで発展してきた。しかし上流にダムができて川が護岸されると、私たちは穏やかな川の姿に慣れてしまい、水が命を奪うことや命をつなぐものだということすらも忘れてしまうのだ。そういえば、昔の人は水源地や田んぼのそばに祠をたてて水神として祀っていたが、あれは水の恵みと怖さを常に意識の中に置いておくという意味もあったのではないだろうか?



そのように川は大雨が降ると牙をむく存在ではあるが、それでも人間は古来からその恵みを多いに利用してきた。骨考古学の第一人者である片山一道さんの本によれば、縄文時代の人骨の多くに「サーファー耳」が見られるそうだ。これは耳が発達する青年期までに日常的に水の刺激を受けることで耳の軟骨の一部が瘤のようにふくらむ現象で、素潜りをする海女さんにも多い症状とのこと。つまり、縄文時代の人びとは子どもの頃から頻繁に海や川に潜り、魚や貝などを獲っていたということだ。

川の利用でいえば、東京の東村山にある下宅部遺跡では、川に杭を打ち込み、丸太をつなげて作った水場の跡や魚道に設置するしかけ罠のような網かごなどが見つかっている。さらに同じ場所から大量の鹿や猪の骨とともに儀礼用の弓も出土したことから、狩りの戦利品を河原で解体し、儀礼を行っていたのではないかといわれている。そして周囲に住居跡は見つかっていないので、水辺は作業場としてのみ使い、住まいは安全な高台に構えていた当時の人びとの様子が伺えるのである。

川を恐れながらも生きていくためには川をしっかり利用する。そして恵みに対してしっかりと感謝の気持ちを表す。そんな縄文時代の暮らしの片鱗を見るにつけ、太古の人はなかなかしたたかに生きていたのではないかと思ってしまうのだ。



命の水が命を奪う水でもあるように、火もまた同様の2面性を持っている。火と人間の歴史というのは大変古く、ヒト属がホモ・サピエンスに分化する以前からのつきあいだ。人間は火を使うことで獣が近寄らない安心な環境を作り、加熱調理でさまざまな栄養をとり、寒冷地でも生きられるようになった。さらには土器を焼き、鉱物を精製して鋳物などの道具を作り、火を灯して儀礼を行ってきた。 そのように火は人の暮らしを豊かにしてきたが、適切に利用しなければ簡単に危険を招いてしまうのも火である。

白川郷で年に一度行われる一斉放水は晩秋の風物詩だが、これは空気が乾燥する冬期に備えた防火訓練だ。木造家屋で茅葺き屋根の合掌造りは火に弱い。だから荻町で花火は禁止されているし、町内会では1日4回も火の用心の見回りをしている。生火の利用が少ない現代でそうなのだから、囲炉裏やかまどがフル稼働していた頃には、さらに火災予防に細心の注意を払っていただろう。そもそも外にあった炉を家の中に持ち込んだのは縄文時代の人びとなのだけど、合掌造りのように天井が高くない竪穴住居に至っては火事のリスクに対してどのように対応していたかが気になるところだ。

しかし、湿度の高い日本列島では自然素材で作られた合掌造りも竪穴住居にしても、火を焚いて煙で燻さなければカビや虫食いなどで朽ち果ててしまう。実際、観光用に公開されている合掌造りの多くが夏でも囲炉裏に火が焚かれていた。よく囲炉裏は火種を絶やしてはならないといわれるが、それは「家の生き残る力の連続」という考え方が込められているのだと民俗学の本にも書いてあった。日本人にとって火とは家に生命を吹き込むような存在で、その心象は竪穴住居の炉から囲炉裏へと継承されていったのだと思う。



縄文時代の火の産物といえば、土をこねて焼成した土器だ。今では博物館の片隅にくすんだ色をして鎮座する土器ではあるが、人類の歴史においては調理や保存の技術を格段に高めた革命的な道具であり、鍋や壷、香炉やランプなど、今も使われている道具の多くが、縄文時代の火の利用から生まれている。

石や骨や木を加工して道具を作るのとは違い、土器を作ることは火を介して物質を変成させるという科学の第一歩でもある。自然暮らしでは、姿あるものはカタチを変えるのが当たり前。土は崩れるものだし、植物も動物もいずれは腐る。それが焼くことで思った通りのカタチを保ち続けるわけだから、何らかの人智を越えた力が働いた結果と思ってもおかしくはない。脅威をもたらす一方で、恵みをもたらす火は人の暮らしにいちばん近い自然=カミのような存在だったのではないかと思う。

日本列島の先住民であるアイヌ民族には、カムイノミと呼ばれる火を用いる儀式がある。それは火の周りに酒や食物を供え、火に向かって祈りを捧げると、火のカムイがそれぞれのカムイに祈りと供物を届け、そのお返しとして恵みをもたらすというもの。自然界と人間界とをつなぐ火のカムイなのである。



江戸末期から昭和初期までの白川郷の主要産業といえば養蚕。囲炉裏のある1階部分に人が住み、その上を蚕室としたため、合掌造りはあのように広い屋根裏を持つカタチに発展していったわけだが、実は合掌造りにはもうひとつ生産施設としての顔があった。それは床下を利用した塩硝作りである。

塩硝とは硝石のことで、これに木炭と硫黄を混ぜると黒色火薬になるそうだ。硝石が採れない日本では、暮らしから出る廃棄物を囲炉裏の熱が及ぶ温かい床下で発酵させて硝石同様の塩硝を作っていた。科学の発達していない時代にどうやってそのような製法を発見したのだろうか。昔の人のバイオテクノロジーには驚いてしまう。

塩硝作りは白川郷から山を隔てた五箇山が有名だが、白川郷でも同様に生産され、蚕と並ぶ現金収入源として重宝された。製造された塩硝は大阪や江戸、加賀などに運ばれて火薬となり、大砲の砲弾や鉄砲の火薬として配備されていったという。



人の命を奪う火を、人が人に対して使うようになってからしばらく経つ。自然の中で暮らすということは、恵みの自然と荒ぶる自然という2面性を知ることである。昔の人は、そのことを知っていて自然を恐れ、敬いながら利用した。

しかし、人間も自然から生まれた「自然」と考えれば、人間にも2つの面があるということなのかもしれない。現に今も世界中で毎日のように戦火が起きていることを思うと、人間の持つ2面性というものを私たちはもっと認識しなければいけない時がきているのかもしれない。そして、万が一憎しみで心を焼きつくされるようなことが起こったら、自分はどうするだろうかと考えてしまう。でも、いくら考えても答えは出ない。

願わくば、火薬は夜空に咲く花火の原料であってほしい。やはり、祈るしかないようだ。


profile 草刈朋子
縄文ライター
北海道出身。東京造形大学在学中よりインディーズ雑誌を発行。映画のコピーライター、雑誌編集、書籍編集を経て独立。2009年よりNPO法人Jomonismに参加し、縄文関連イベントや縄文アート展の企画・運営に携わる。2014年より縄文ライターとしての活動を開始。縄文カルチャーから現代を見つめるべく、カメラマンのヨッシーを伴い東へ西へ。フェスなどで黒曜石で作るアクセサリー作りのワークショップも行なっている。



INFOMATION
12月27日に代官山UNITで開催する「ワンネスミーティング〜縄文から未来へ」にて、OKI DUB AINU BANDのOKIさんと居壁太さんによるカムイノミの儀式を行います。
詳細はホームページやFacebookで随時発表!
http://onenesscamp.org/
https://www.facebook.com/OC2012/


参考文献:『骨が語る日本人の歴史』(片山一道/ちくま新書)、『下宅部遺跡Ⅳ』(東村山市教育委員会)、『日本民俗学』(吉川弘文館)、金沢大学学術情報リポジトリKURA「五箇山出来中煮塩硝の他国津出し」*WEBサイト

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