必然の一歩 プレひょうたん市場に託す思い 吉田ケンゴ

オーガニック&エコロジー

必然の一歩 プレひょうたん市場に託す思い 吉田ケンゴ

88の熊本特集で、阿蘇の森で暮らす吉田ケンゴさんを訪ねたのは2014年のこと。311以降の新しい共有の場としての市場を、九州で立ち上げようとしていたときだった。それから2年。森には少しだけ春の息吹が感じられる3月末、阿蘇を再び訪れた。ケンゴさんが想像していた「ひょうたん市場」は、数々の必然を経ながら、開催に近づいていた。そしてこの取材の後、熊本を震源とする大地震が起きた。

文・写真=菊地 崇


プレひょうたん市場開催までの時間。

–––– 2年前の『88』の取材の際に、「ひょうたん市場」の構想を聞きました。この2年でどんな動きがあったのでしょうか。

ケンゴ 東日本大震災をきっかけに、南阿蘇に移住した人たちって多いんですよね。移住した人たちが集まる新年会があって、みんなで何かをやろうよという話になったんです。それが2年前のお正月。移住してきた人たちって、何らかの意識を持って阿蘇にやってきた。話せば話すだけ共通項が出てくるんですよね。価値観も近い。その時に僕が提案したのが市場。みんな賛成してくれて、それをどう実現させようかということで動き出したんです。そしてYouTubeで構想を発表した。

–––– ちょうどその時にお会いしたんです。

ケンゴ アップして1年くらいして、ある人が「ひょうたん市場に感銘した、やりたいことが一緒だ」って連絡をくれたんです。その人は旅をしていたオーストラリアでYouTubeを見たらしいんだけど、「宮崎の津農に土地を持っているんだけど、見に来ないか」と誘われて。次の日に見に行ったら、ひょうたん市場をするには十分な広さだったんです。さらに、隣接した森を指差して、「場合によっては、ここに作ってもいい」と。

–––– ひょうたん市場は、仮説ではなく、常設を目指しているとケンゴさんは話していましたね。

ケンゴ 結局、その森を開墾して、ひょうたん市場をそこで進めることになったんです。僕らだけの力じゃ、森を開墾するなんて到底できないんだけど、協力してくれる人がまた現れて。ひょうたん市場のコンセプトを話すと、「夢をもらった」って言ってくれる人が多い。ありがたいことに、夢のために協力してくれる。今は夢が実現化していく途中。一番楽しい時間ですよ。



東日本大震災以降の光。

–––– ケンゴさんは、東日本大震災をきっかけに、阿蘇での暮らしをはじめました。

ケンゴ 3月12日に埼玉を出て、まずは山口の上関に向かったの。上関で一泊したけれど、できるだけ離れようと思って、九州まで来たんです。ただ引っ越しも済ませてないで飛び出してきたから、沖縄までは行けない。それで目的地として漠然とイメージしたのが宮崎だったんです。正木(高志)さんのところに立ち寄ったのが縁で、阿蘇の森に住むことになったんですね。正木さんは、明治公園のBE-INでトークしてもらっていたこともあって、正木さんの気持ちを聞きたかったというのがすごくあって。そのとき正木さんは「文明はいつか必ず崩壊するよ」と。

–––– 考えてみれば、いろいろな文明が滅びていますから。

ケンゴ でも、文明が絶えたとしても、人間は生き残っている。正木さんは、「文明が崩壊して、そこからまた新しい何かがはじまる」って続けて話してくれて。そして「市場からはじまる」と。新しい文化が必要で、生まれるときが来ている。だから、完全に崩壊する前に市場を作ろうと思った。それがひょうたん市場のきっかけ。

–––– 東日本大震災というよりも福島原発事故と言い換えたほうがいいですね。原発事故によって、多くの人が西へ向かった。

ケンゴ 311を体験して、すっごく不安な気持ちになったし、今でもフラッシュバックしちゃうことがある。2度と抜けることのできないトンネルに入ってしまったという実感。僕はこれを恐れていたんだという、やっぱりそうなっちゃったじゃないかという…。忘れちゃいけない体験なんだよね。そこからすべてがはじまったと思っていて。

–––– 311によって、ケンゴさんはどんなところが変わりましたか。

ケンゴ 予定を立てて、プログラムを組んだことが、全部ひっくりかえされたような気分。これから先、2度とこのような思いをしたくないと思って。はっきりと予定は立てないって決めたんです。身軽になりたい。だけど予定が立てないんだけど、次の一歩だけは必然で決まっていく。「あ、これは」って感じる瞬間がある。それがひょうたん市場だったんですよ。ひょうたん市場によって、闇から抜け出せるっていうのかな。311の直後は本当に100パーセントの闇で、でもそれは今も変わっていないはずで、何も解決していない。

–––– 時間が経過することによって、記憶の片隅に追いやられているのかもしれませんね。

ケンゴ 解決は何もしていない。だけど人間は、明るく生きていかなければならないから、光をどこかに見つけようとするし、光は必ず射すって信じるし。光が射した感じがひょうたん市場なんです。ひょうたん市場を模索し想像する。そうすることによって元気になっているというのを実感したし、人に伝えることによってさらに元気になっていった。希望なんだよね。だから、今はすごく楽しいんだ。


必然的な一歩を踏み出すとき。

–––– 5月27日から29日までプレひょうたん市場が開催されます。

ケンゴ プレイベントは常設のひょうたん市場への一歩目。後から後から必然的に、この動きで行こうという意味づけができてきている。そうやって動いていくと、自分の個人的な意識なと、逆にちっぽけに見えちゃうというか。311以降、いろんなことが世界で噴出して、かなりな時代だなって思えるんです。今まで持ってきた概念とか既成のものに、答えが見つからないんじゃないかって。僕も先のことはわからないんだけど、市場という次の一歩は間違いないって思っています。

–––– 市場は、野菜などが中心になるのですか。

ケンゴ 人間は食べ物があれば生きていける。その意味では、自分たちで作った野菜などは、大切なコンテンツのひとつだと思います。衣食住のなかで、一番大切なものは「衣」なのかもしれないって思う自分も生まれていて。衣食住という言葉の最初にあるのが「衣」だと。それをある人から言われて、眼からウロコっていうかさ。まだ本質のところはわかってないんだけど、豊かな先住民を思い浮かべると、どの先住民も着飾っているでしょ。僕ら日本人からだと、貧困とかという見方をする人が多いんだけど、本当は豊かなんだよね。

–––– 北中米のインディアンにしろ、アジアの少数民族にしと、確かにジュエリーや衣類など、着飾っていますよね、

ケンゴ 人間は楽しむ生き物だと言えるのかもしれない。あるいは遊ぶ生き物。衣類を着るのも、もしかしたら楽しむことのひとつかもしれないよね。だから毛むくじゃらの獣から毛がなくなって、衣に頼らざるをえない身体になった。ちょっと前なら、「衣食住で一番大切なものは衣」と言われたら、「はぁ?」ってなっていたけど、最近はこのことを考えるようになって。

–––– ある意味、音楽なども楽しむことの大きな要素ですものね。

ケンゴ アフリカに「音楽をしなくなった村は死んだ村」という言葉があるようなの。死ぬか生きるかの最後に音楽をやっている人たちがいるんだよ。エンジョイは生命力の根源かもしれない。楽しくないと、生きている意味がまったくないというか。どういう時代でも、厳しい時代でも、楽しいことに向かおうというベクトルが、必ずあると思う。


–––– 今、ひょうたん市場をどんな場にしたいと思っていますか。

ケンゴ 今ある既存のすべて。本当にすべてですよ。学校から政治から、お金や経済から、すべてをゼロにして、白紙にして、全部自分たちで生み出すしかない。それをどこからやっていいのかっていうのは、必然に任せて、やるべきところからやるしかない。頭をシンプルにしておかないとね。プログラムを組んで、「これだったら、こっちが先だよ」というようなことは一切やりたくなくて。

–––– プログラムがあるとゼロにはならないってことでしょうか。

ケンゴ そう。だから最近はゼロにする練習をしているんだよ。例えば、太鼓を叩いてみんなで盛り上がるというシーンがあったとする。盛り上がったのをゼロにするのはどうしたらいいのかって考えるわけ。

–––– それは音を止めるということでしょうか。

ケンゴ みんなで太鼓を叩くっていうことがどうやってはじまったのか。誰かが「太鼓」って言ったことかもしれないし、誰かが叩き始めたことがきっかけだったかもしれない。ゼロってどこにあるのか。叩いて盛り上がったところからゼロに戻すっていうことが、どういうことなのか。誰も考えてみないことを考えてみるわけ。

–––– ゼロに戻すことって、なかなか難しいかもしれませんね。もしかしたらひとりひとりが抱くゼロのポイントが違うかもしれない。

ケンゴ ゼロっていうのはそれぞれの自由だし、積み上がったものをゼロに戻す作業もいろいろある。既存のものをゼロにするのはなかなかできないんだよ。自分の概念をゼロにすることも難しい。アインシュタインが「ある問題が発生したのなら、同じマインドセットでは解決できない」と言っているんです。マインドセットを変えるってどういうこと? 僕のなかでマインドセットを変えるというのは、見い出せた概念を変えるっていうこと。変えるためには概念に気がつかなきゃいけないし、全部が概念なんだって思ってみないと。

–––– その概念がなく、みんなで新しい概念を作る場所がひょうたん市場なんだということですか。

ケンゴ ひょうたん市場を現実に作っちゃったら、今まで想像していたものよりをはるかに超えた素晴らしい世界にそこがなるはず。いろんな思いが相乗効果しているんだから。太鼓のセッションの話ではないけど、ひとりひとりの音、ひとりひとりの思いが重なり合って、相乗効果を生む。そのエネルギーは無限だと思っているのね。相乗効果を生むためにお、必然の一歩が大切なんだと思う。必然的にやる一歩って、必ず何かの意味がある。一歩を踏み出して、はじめて二歩目が見えてくるはずなんです。プレイベントは、常設のひょうたん市場への一歩目の前の半歩目。そこに100パーセントのエネルギーを注いじゃうのが大切なんだと思うんですね。それが必然なんだから。


プレひょうたん市場

会期:5月27日(金)~29日(日)

会場:宮崎県児湯郡都農町川北18854-35 






関連記事

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑