当たり前の感覚を多数派に 広海ロクロー(ノンベクキッチン ホテヴィラ)

オーガニック&エコロジー

当たり前の感覚を多数派に 広海ロクロー(ノンベクキッチン ホテヴィラ)

文=菊地 崇/写真=林 大輔

京都市三条猪熊町に、2014年5月にオープンした <ノンベクキッチン ホテヴィラ>。左京区にあった <NONベクレル食堂< の閉店直後、「幸運が重なって、ここで再スタートできました」と語るのはオーナーの広海ロクローさん。

87年に映画『ホピの予言』を観たことから、ロクローさんの核へのアクションがはじまったという。『ホピの予言』は、北米先住民族のホピ族の予言を軸に、核開発を警告したドキュメンタリー映画だ。

「86年にチェルノブイリ事故があって、僕はそこでやっと原発の危険性を知りました。そして『ホピの予言』。ホピが代々守ってきた大地にウラン採掘場があり、そこで掘られたウランで原爆が作られた。原発の恩恵を受けている僕らは、先住民の苦労の上に、あぐらをかいて座っているようなもんやなって思ってしまって。それが自分にとって一番耐えられないことでした」

そして2011年3月11日。東日本大震災により、福島第一原発から大量の放射能が地球に舞った。翌年 <NONベクレル食堂> をオープン。その名の通り、ノンベクレルの食材だけを扱った食堂で、 naiシンチレーターを購入し、ロクローさん自身が放射性セシウム値を計測した。

「福島原発の事故があって、2年もしたらノンベクレルの店だけになると思っていたんですよね。ところがそんな店はなかなか誕生しない。ちょうど事故が起こった年の4月に、娘が小学校に入学したんです。京都市や教育委員会などに『給食について、どう考えているのですか』と質問状を出しました。返答は『国の基準に準じます』。冗談じゃないですよ。国が国民を守ろうとしていない。 <NONベクレル食堂> というのは、国にケンカを売るつもりで、直球でつけた店名なんです」


 
デモや陳情といった市民運動をはじめ、上映会や講演会など京都からさまざまな形で放射能の危険を発信したロクローさん。けれど、市民運動だけではどうやっても政治が動かないと悟ったロクローさんは三宅洋平さんと親交を深めるなか、2015年4月に行なわれる京都市市議会議員選挙への立候補を決意した。

「市民運動も大事なんですけど、それが政治に活かされるためには、もっと政治に参加していかなアカンと感じたんです。かつては、政治とは汚いもの、まともな人間がやるもんじゃないと思っていたほどです。だけど、政治に関係ないって言うだけだったら、世の中はこのまま悪い方向へ突き進んでしまう。原発は嫌だという価値観は、当たり前の価値観だと思うんです。市民運動をしていると、僕らは少数派なんだと勝手に思ってしまうけれど、当たり前の価値観を持っている人は、決して少なくないんです」

今、全国のいたるところから、ロクローさんのような市民の目線を持った「当たり前の価値観」を持った人が、政治の世界に入ろうとしている。

「福島のこと、辺野古のこと…。それらを、遠いところで起こっている他人事だとしか思ってない人は、自分の未来に唾を吐くのと同じなんやと思う。アメリカの先住民が受けた悲劇も、未来の自分の姿。子どもたちの富を、僕らが使い果たそうとしている。そういう生き方をしちゃっている。僕みたいな一介の飲食店のおやじが、何故、地方政治に挑戦しようとしているのか? それは未来のために残された時間は少ないけれど、まだ希望があると思っているからなんです」

市民が市民として政治に関わっていくこと。自分たちの目線を政治の世界に差し入れていくこと。広海ロクローさんの挑戦は、はじまったばかりだ。


■1965年生まれ。 ■東京・北海道を経て1980年より京都在住。 ■1981年より音楽・アート・映像などのイベントを京大西部講堂などで企画制作する。 ■1992年~2003年の間に7回渡米し、北米先住民の居留地での核実験やウラン採掘、 強制移住の反対運動に参加し、その中で先住民の精神性に触れる。 ■1993年から映画「ホピの予言」の制作グループの活動に参加。上映や講演で、先 住民の現状や世界観を知ってもらうために力を注ぐ。 ■1996年より音楽イベントで平和と環境を考えた企画を始める。2007年には「山水人」でオーガナイザーを務める。2008年以降は、 自転車発電や、天ぷら油で動く自動車を制作し、エコイベントに多数出展。 ■2011年、福島原発事故で放射能汚染の実態を知り、安全な食べ物を提供したいと自 ら測定した食材を使ったレストラン「NONベクレル食堂」を左京区岩倉に開店。 ■2014年、店を三条猪熊に移し「ノンベクキッチン ホテヴィラ」開店。 ■三宅洋平氏(NAU)に影響を受け、2015年の京都市会議員選挙立候補予定者となる。 ■2282票で落選し、現在に至る。2児の父。
テヴィラ




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