カウンター・カルチャーの進化をフェスに昇華する BONNAROO 2009.6.11-14

フェス(祭り)

カウンター・カルチャーの進化をフェスに昇華する BONNAROO 2009.6.11-14

アメリカ南部のテネシー州で2002年に産声をあげた<ボナルー>。ジャムの祭典としてスタートしたこのフェスは、様々な音楽を集めることによって進化を果たしてきた。けれどその根源にあるのは<ウッドストック>を起源とする、カンター・カルチャーをバックボーンにしたアメリカのフェス・カルチャーだ。

文・菊地 崇/写真・林大輔


アメリカ中南部のナッシュビルから。

ノースウェスト便はデトロイト経由でテネシー州の州都、ナッシュビルに到着した。ナッシュビルは「ミュージック・シティ(音楽の街)」というニックネームが付くとおり、カントリー・ミュージックのホームタウンであり、アメリカ人にとっては「心の故郷」として存在している。

ただ僕らは、音楽が溢れるナッシュビルに立ち寄ることはなく、空港からそのままインターステート24号を南東に向かった。ナッシュビルからおよそ40マイル(60キロ)のマンチェスターで、アメリカ最大規模のキャンプイン・フェスティバル<ボナルー>が開催されるからだ。


2002年にジャム・ミュージックの祭典としてスタートした<ボナルー>。正式名称は<ボナルー・ミュージック&アート・フェスティバル>。テネシー州の農場を使っての野外フェスは、開催初年度から6万人以上のファンを集めた。ジャムだけではなく、カントリーやブルースといったルーツ・ミュージックからエレクトロニカといった最新系まで、多種多様な音楽をフェスのなかに取り入れつつ進化していった<ボナルー>。もっとも多い年では10万人以上のファンを集めたという。去年までは3日にわたっての開催だったものの、今年は4日間に延長。アメリカの経済不況により入場者は減ったというが、それでも7万5千人ものフェス・ヘッズがアメリカ南部の農場に集った。4日間ののべ人数にすれば、30万人近くが<ボナルー>を楽しんだことになる。

到着した日の夜は、ナッシュビルと<ボナルー>のほぼ中間に位置する町に宿を決めていた。そこならば、道が込まなければ1時間程度で会場に到着できる。けれど数万人も集まるアメリカのフェスで、時間通りなんて考えないほうがいい。


 テネシー州の農場へ。

フェス初日、ホテル近くのマーケットで、水や食糧といったフェスの必需品を買って会場へ向かった。もちろん瓶ビールも大量に購入。なんてたって、日中は華氏90度を超えると予想されていた。摂氏にすれば35度近くになる。6月のアメリカ南部で日差しも強い。瓶ビールにしたのは、美味い地ビールはほとんどが瓶ビールだからという単純な理由。アメリカでは、日本でなかなかお目にかかれない地ビールに限る。


今回のフェス旅では、幸運にもVIPチケットを手にすることができた。VIPチケットに指示された通りに、会場の手前のEXITから一般道路に入った。道はまったく込んでいない。車のラジオからは、去年の<ボナルー>のライブ演奏が聞こえてくる。そしてゲートを越え、<ボナルー>のなかへ入っていった。友人たちから、何度もその楽しさを聞いていた<ボナルー>。大げさではなく「夢の地」に立ったという実感が、身体の奥底からわき上がってくる。ちなみに大量に購入した瓶ビールは、ゲート入場時にそのほとんどをスタッフに持っていかれてしまった。レギュレーションによると缶はOKで瓶がNGなのだという。

キャンプサイトを含んだ会場の広さは700エーカー。おおよそ東京ドーム60個分の広さだ。会場の南端にライブなどが行われる<ボナルー>の核心部がある。その広さがおよそ100エーカーで、それ以外の600エーカーが広大なキャンプサイトだ。VIPのキャンプサイトは、メインステージとなるWHATステージに隣接した場所にある。ステージとは塀で区切られているけれど、立てばステージが見える。VIPというステイタスは、まったく慣れていない。けれど、日本からお金と時間をかけていくのであれば、よりストレスがないVIPも悪くない。テントとタープを建て、スタッフに没収されることなくゲートをくぐり抜けてきた瓶ビールで乾杯! これから4日間、身も心もどっぷりとフェスの人になる。


 4日間で、のべ30万人が集うビッグフェス。

09年の<ボナルー>は、ブルース・スプリングスティーンとPHISHがダブルヘッドライナーとしてラインナップされていた。PHISHは3 月のハンプトン・コロシアムで復活。そして夏のツアーがはじまっていた。夏のツアーのなかに、<ボナルー>での2日間が組み込まれていた。他にはビースティー・ボーイズ、ナイン・インチ・ネイルズ、デビッド・バーンなどのロック&ポップス系、ベン・ハーパー、ガヴァメント・ミュール、moe.、ギャラクティックなどのジャム系、ブッカーT、デビッド・グリスマンなどのルーツ&カントリー系、スヌープ・ドッグ、パブリック・エナミー、フェミ・クティなどのブラック&ワールド系、MGMTなどのエレクトロニカ系と、まさに多種多様な音楽が<ボナルー>のなかで楽しめるようにセレクションされていた。

これが、アメリカのみならず世界有数のビッグフェスとして多くの支持を集めるようになった要因に違いない。ただし、フェスの根幹にあるのは、カウンターカルチャーを継承するジャム。これが<ボナルー>のコアにあることは変わりないし、だからこそPHISHがこのステージに立つのだ。

初日の11日は前夜祭とでも言えばいいのか。メインとサブとなるWHATとWHICHステージはオープンしていない。これ以外のTHIS、THAT、THE OTHERの3つのテントで夕方からライブが行われた。


100エーカーの広さを実感するために歩いてみた。フラットな大地で、木陰もまるっきりないというわけではない。地ビールを集めたビアガーデンもあるし、コメディシアターや映画館もある。野球のアトラクションもある。様々な「遊び」が用意されていた。農場という大地のなかにステージやテントが点在していることもあって、人が込んで歩きにくいということが少ない。ひとつひとつのステージやエリアは大きいのだけれど、歩いた感覚では広くはない。広さや人の多さを意識することなく気軽にその場所にいる時間を楽しむことができる。そんな気がした。これは最終日までほとんど変わらない印象だった。

12日。この日から<ボナルー>が本格的にはじまる。PHISHはWHATステージのヘッドライナー。午後11時から深夜2時までがPHISHの時間として用意されていた。いろんなバンドが顔をそろえ、日本に来ることはないであろうバンドも多い。そんな見ることができないバンドを見ることが、海外のフェスの一番の魅力に違いない。しかし個人的にはPHISHをフェスで見ること。これがこの<ボナルー>におけるミッションだ。自分たちでも野外フェスをオーガナイズし数万人を集めてしまうPHISHは、ほとんどフェスに出ることがない。アメリカを代表するアンダーグラウンド・バンドと『ローリングストーン』誌が90年代中盤に特集した後は、99年の<フジロック>、98年の<ファームエイド>、97年の<グラストンベリー>など数回しかない。PHISHを数万人とフェスで見ることができる。そんな感慨はめったにあるもんじゃない。


ピークを夜11時にもっていこうと思っていても、やはり見たいバンドは次から次へと出てくる。ギャラクティックはふたりのホーンをゲストに加え、よりファンク色の強い演奏を聞かせてくれる。ヒップホップ色を濃くしていたここ数年のギャラクティックよりも、ファンクに徹したほうが数段いい。歩いていると、ホームページでは知らされていないSONIC という小さなステージも出くわした。スケジュールを見ると、カキ・キングやベラ・フレックといった、見ることを諦めていたミュージシャンのライブもそこで予定されている。


<ボナルー>に流れる空気をゆっくり味わいながら、11時が来ることを待っていた。そして11時。他のステージではライブが止まり、7万5千人の意識はPHISHのステージへと集中する。

ライトセットは、どうやらPHISHでライブで使うものを持ち込んでいるようだ。以前に行った<コーチェラ>もそうだったけれど、メインステージは、フェスで用意したものではなく、音も映像もすべてそのヘッドライナーが支配する。そしておよそ10年振りとなるPHISHのフェスでのショーがはじまった。

午前2時までの3時間という長さを考えれば、他のPHISHのライブと同じように2セットでの演奏と思っていた。1時間半経っても演奏を止める気配がない。むしろ徐々に4人の音にかけるテンションが結集され、そこにいるすべての人を含んで大きなグルーブとなっていく。4人から放射される音に反応するかのように、何万本ものグロウスティックが夜空を舞う。「この光景に出会うために<ボナルー>まで来たんだ」。そう心のなかで叫んでいる。 

3時間のショーは、興奮と感動を僕らに同時に与えながら、あっという間に過ぎ去っていった。キャンプサイトに戻っても、その余韻を楽しみながら、朝まで同行した仲間たちといろんなことを話した。


 2日目にして、体力を使い果たしてしまったのかもしれない。フェスの本来のピークである土曜の夜。ブルース・スプリングスティーンがメインステージに立ち、アメリカを鼓舞していく。その後にはレイトショーとして、moe.、ベン・ハーパー、MGMT、ナイン・インチ・ネイルズといった準主役級たちが、同時進行でいろんなステージでライブを繰り広げた。けれど僕はブルースのときに、車がエンストするのと同じようにエネルギーがピタッと切れてしまった。

最終日。<ボナルー>の最後を絞めるのもPHISHだ。4日目ともなると、重いアメリカのフェス飯はカラダが受け付けなくなってしまう。まだ行っていないところも少しは雰囲気を味わってみようと寄ったPLANETROOというエリアで、オーガニックのスープやサンドイッチなどカラダに優しいフェス飯に遭遇した。ステージはソーラーパワーを使ってのライブが行われていた。

そしてPHISH。この夜は2セット。1セットの最後にはブルースをステージに呼びセッションを繰り広げた。アメリカ人は、もちろん大きな歓声で、そのセッションに応えていった。


人と土地のバランスで成立する快適感。

振り返れば、PHISH以外にもインパクトのあるライブが多かった。けれど自分としてはPHISHにはじまりPHISHで終わった。VIPチケットということもあって、ほとんどストレスがなかった。失敗だったのはゲートで大量にビールを没収されてしまったくらい。雨が降ったのも初日だけ。会場へ入る際のボディチェックも、VIPエリアからではほとんどない。フェスでの進化とは、ファンが少しでもストレスを軽減し楽しむことにいかに没頭できるか、ということにつきる。その意味では、<ボナルー>はビッグフェスとは思えない快適な空間と、ビッグフェスだから実現可能な欣快な時間が用意されていた。


「BONNAROO」とは、アメリカ南部のクレオール語で、「快適とか最高」を意味する言葉なのだという。

なかなかこの言葉を使いたくはないのだけど、やっぱりこう思う。「ボナルーってサイコー!」


Lj16

関連記事

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑