700年続く妖艶であり夢幻な踊り 西馬音内盆踊り  (にしもないぼんおどり)

フェス(祭り)

700年続く妖艶であり夢幻な踊り 西馬音内盆踊り (にしもないぼんおどり)

秋田県南東部の小さな集落が、1年のうちに夏の3日だけ賑わいを見せる。盆踊りとして、はじめて重要無形民族文化財に認定された西馬音内盆踊りが行なわれる。かがり火が焚かれるなか、深い編み笠か彦三頭巾で顔を隠した踊り子たちが、お囃子の調べのなかに踊り続ける。そのさまは、妖艶であり夢幻だ。

文/写真・宙野さかな

秋田県南東部の羽後町に西馬音内という集落がある。西馬音内と書いて「にしもない」と読める人は、この土地のことを知っている人以外ではそれほど多くないだろう。アイヌ語を語源にしているとも言われている。日本のどこにでもあるような静かな佇まいの町。この町が年に3日だけ賑わいを見せる。8月16日から18日にかけて開催される西馬音内盆踊りは、日本三大盆踊りとして知られ、重要無形民族文化財に指定されている。

西馬音内盆踊りがいつはじまったのか、どう伝えられていったのか、記載されたものがまったく残っていない。伝承によると、およそ700年前にはじまったといわれている。

深い編み笠と彦三(ひこさ)頭巾で顔を覆った踊り子たち。身にまとっているのは、端縫いや藍染めの浴衣。アジアのどこかの国の密教行事なのかと思ってしまうほど、エキゾチックさが漂っている。西馬音内盆踊りが〝亡者踊り〟と呼ばれているのは、彦三頭巾が妖しい雰囲気をかもし出しているからだ。はじまりが近づくと、かがり火が焚かれ、さらに妖艶さが増していく。櫓の上から太鼓と笛、三味線などで奏でられるお囃子が優しく響いてくる。

踊りは2種類。「音頭」と「がんけ」だ。16日と17日は19時にはじまり23時まで。最終日の18日は19時にはじまり23時半まで、「音頭」と「がんけ」が交互に踊り継がれていく。

踊り手は、子どもも、大人も、男性も、女性もいる。子ども以外、ほぼ全員が編み笠や彦三頭巾で顔を覆っているので、踊り手の年齢はわからない。端縫いは女性だけが身につけている。かつては自分で縫ったものを着ていたのだろう。

地口と呼ばれる音頭の歌詞やがんけ唄は、宵の口には豊作を願ったものや世俗を風刺したもの、ユーモアに満ちたものが多い。けれど夜が深まっていくにつれ、卑猥なものへ変容していく。長く歌い継がれている音頭やがんけもあるという。つまり、私たちが関心を寄せることは、時代が移っても変わらないということだ。

しなやかな身体の動きとあでやかな衣装。顔が見えないから、美しさへのイメージはさらに膨らんでいく。大正時代には「風俗を乱すもの」として弾圧したという歴史もある。踊りの歩みのスピードは遅い。ゆっくりゆっくり前へ進んでいく。左回りに進んでいくのだけど、一周するのにどのくらい時間を要しているのかわからない。一周している踊り子がいるのかどうかさえわからない。もしかしたら、今、眼の前で踊っている人は一期一会の出逢いかもしれない。そんなことを考えながら、踊りを見続けていた。

最終日。4時間以上踊りが続き、フィナーレへ近づいていく。今年の盆踊の終わりが告げられると、踊り子たちは櫓の近くへと走り寄っていく。踊りは終わったものの、お囃子はライブのアンコールのように音を再び鳴らす。そこで女性たちは、はじめて顔を露にした。美しい笑顔が満ちていた。



西馬音内盆踊り
会期:8月16日(日)〜18日(火)

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