アイヌ長老の教え 第8回 太陽と月

ローカル(日本)

アイヌ長老の教え 第8回 太陽と月

語り部・秋辺得平
写真・廣川慶明 /切り絵・依田恭司郎

自然界の流れや仕組みの中で、もっとも大切なものは太陽です。多くの生命に生きる力を与えてくれるもの。あまりにも重要すぎて、太陽のことを口にしてはいけないと教えられました。凄いものだからこそ、口にしてはいけない。

あまり口にしてはいけない大切なものとしては、夫婦の名前があります。夫は妻の名をあまり口にしてはいけない。妻も夫の名前を直接呼ばないほうがいい。仲が良ければ良いほど、やきもちやきの神様が現れて、ふたりの関係を引き裂こうとする、と言うのです。

太陽を丁寧に呼ぶ場合は『ハシナウサンカオインカルカムイ』と言います。重要な儀式が行われる場合は、この名前が使われる。『ハシナウ』とは「狩猟の神様」のことです。『サンカ』とは「差し出す」とか「提供する」という意味です。『オインカル』とは「下界を見渡す」。それが『ハシナウサンカオインカルカムイ』です。自然界に存在するものの中心に太陽がある。そして月がある。そういう考えを持っていたのです。

『ペケレチュプ』という言い方もします。「明るい月」という意味です。月は『クンネチュプ』で「暗い月」。太陽も月も『チュプ』と表現します。ただこの言葉も、あまり口に出してはならない。

地球が丸いなんてことをアイヌは知りませんでした。太陽を中心に地球が廻り、月は地球を中心に廻っていることも知りません。「神々がどこからいらっしゃいますか?」と問われれば「東から来られる」と応える。「神々がどんなところにおられますか?」と聞かれれば「遥か天空の彼方にいる」と応える。太陽は東から昇りますから、そういう応えになったのです。

広大な宇宙空間と自分たちが住んでいる人間界。私たちの身近なところには山々と海がある。手の届かないところに宇宙がある。山には熊の神様がいらっしゃって、海には鮭の神様がいらっしゃる。宇宙には神々が住んでいらっしゃる。

里で私たち人間は暮らしています。生きるために、山や海が里の廻りにある。「外国人」のことを『レプンクル』と言います。「海の向こうにいる人」という意味です。倭人のことを『シサム』。「すぐ隣の人」という意味です。自分たちアイヌがここにいて、近くには『シサム』がいて遠くには『レプンクル』がいる。里があって、山や海があって宇宙がある。実に合理的に自然界を見つめ接していた。自然界には、もちろん私たち人間も含まれています。自分たちを見つめた上で広がっていったアイヌの世界観は、なんら未開でもないし、なんら野蛮でもありません。

私が長老から何を学んだのか。それはアイヌの自然観ということです。小学校以来、中学、高校と続いた学校教育を遥かに超える奥深さをアイヌは持っていたのです。

profile 秋辺得平  
1943年、千島ウルプ島生まれ。アイヌの人権問題に広くかかわるとともに、文化継承にも力を入れ、釧路アイヌ民芸企業組合をベースに精力的に活動を続ける。

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