アイヌ長老の教え 第12回 <チカルカルペ>衣類

ローカル(日本)

アイヌ長老の教え 第12回 <チカルカルペ>衣類

語り部・秋辺得平
写真=片岡一史/切り絵=依田恭司郎

アイヌでは、衣服の種類が非常に豊富です。近代以降、一般的には木綿で作られたものを着用していますが、近世以前から交易によって様々な素材が入ってきました。それ以前は樹脂衣を着ていた。木の皮の繊維で織ったもの。沖縄での芭蕉布であり、和人では麻布のようなものです。

樹皮ではない自然素材のものも愛用していました。例えば鮭の皮で作った着物。鮭の皮を張り合わせて作るのです。鳥の羽も好んで着ていました。今でいうダウンです。自然界から得た素材と交易によって得た衣類。それらを気候や季節に合わせて、使い分けていました。

アイヌの衣類の特徴は、素材そのものよりも、非常にきれいな文様を刺繍することにあります。一般的に着られる着物のことを<チカルカルペ>と言います。<チ>は「私たち」、<カル>は「作る」、<ぺ>は「もの」という意味です。つまり着物は「私たちが作るもの」。アイヌの着物は、手間ひまをかけて縫ったものなのです。

ベースとなる木綿の生地に黒い布を置いていく。それを綴じて、文様を刺繍していきます。文様を刺繍することによって、ベースとなる布を補強して丈夫にする。そして冬の寒さから守る保温性を高くする。文様は魔除けにもなります。

文様には、渦文様、網文様、棘文様などがあります。

渦は自然界が持つ大きなパワーです。渦潮の渦、吹雪が舞うときの渦…。山で地吹雪が吹き荒れたときは、コンパスを見ても方位がわからなくなってしまうそうです。地場が変わってコンパスが効かなくなってしまう。それくらい渦とは怖いものなのです。そのパワーをアイヌは知っていました。

網は魔除けです。アイヌも昔から網を使って魚を獲っていました。袖口や襟口に網の文様を入れる。それは網によって、そこから悪いものが入ってこないように防御するとの考え方からなのです。

棘は身を守るもの。例えばバラの棘。植物だけではなく、山のヤマアラシや海のハリセンボンも同じです。自分の身を守ることを文様として刺繍することによって願っていた。文様のなかに自然界の力を取り入れることによって、その着物を着る人に力を与えていたのです。

<チカルカルペ>のほかに、<カパラミプ>と呼ばれる衣類もあります。<カパラ>は「薄い」、<ミプ>は「着物」。大幅の白い布に切り抜きで文様を作り、ベースとなる木綿の生地に張り付けていきます。一枚の布で壮大な文様を作る。(樹皮製よりも薄いという意味で「布製」をすべて<カパラミプ>とも言います)

<ルウンペ>という着物もあります。<ル>は「道路」、<ウン>は「ある」、<ぺ>は「もの」。ベースになる生地に細く引き裂いた布を左右前後自在に置きます。あたかも道が走っているかのように置く。そして綴じていく。

<イクパスィ>という祭祀に使う彫刻も同じで、アイヌの衣類の文様にもふたつと同じものがありません。理由は簡単で、誰のために作るのか目的がはっきりしているからにほかなりません。女性が着物を作るときには、夫のものか、子供のものか、恋人のものか、相手への思いも刺繍の一針一針に込めていく。それぞれサイズも文様も違うのです。

アイヌでは布がそんなに豊富にあったわけではありません。交易で手に入れた貴重な布は、例え1センチや2センチといった小さな端切れであっても決して捨てずに大切にする。小さな端切れを丹念に繋いでいく。

着る人に対する思いを込めて一生懸命綴っていく。その結果、非常に味わいのある手作りの、たったひとつだけの着物が生まれる。人を想う心と物を大切にする心が、ひとつひとつの着物にも現れているのです。

profile 秋辺得平  
1943年、千島ウルプ島生まれ。アイヌの人権問題に広くかかわるとともに、文化継承にも力を入れ、釧路アイヌ民芸企業組合をベースに精力的に活動を続ける。

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