アイヌ長老の教え  第14回 身分と位 

ローカル(日本)

アイヌ長老の教え 第14回 身分と位 

語り部・秋辺得平
写真・片岡一史/切り絵・依田恭司郎

国連総会で、地球に3億7千万人以上いるとされる先住民の自決・自治権や固有の文化や資源を保障する「先住民の権利に関する宣言」が採決されたのは、2007年9月のことでした。私はこの宣言のために、20年にわたって計21回国連へ出向き、多くの先住民と交流を深めてきました。

世界の先住民族と共通しているのは、文化はそれぞれが生きる場所から導き出されたものが多いということです。それでは先住民族の文化の共通点は何か、それはやはり自然への観察力から生み出されたものです。どう自然界に対応して生きていくか。つまり自然との共生を図っていくことから文化は生まれていく。アイヌも同じです。

先住民族の世界では、一般的に身分の上下関係を意味する位というものがほとんどありません。もちろん位や身分が決められた先住民族もありますが、それほど多くはありません。位は、人間社会が自然界から離れていくことによって、より具体化されていったように思います。アイヌや多くの先住民族では、位は人間に対してのものではありません。位とは、太陽であり月であり水というものの自然の力を示すものであり、自然の大切さを教えてくれるものです。生きるために必要不可欠なものであり、それら自然を敬うことによって、人間は自然のなかで生かされているという意識が心のなかに刻まれてきました。身分の上下関係ではなく、年齢であったり、生きていく生き様であったり、その人の個性に対して敬意を表することが重要であり、敬う心から人間同士の付き合いがはじまっていきます。生まれた家や場所によってひとりの人間が特別な存在になるわけではなく、あくまでもその人間にたいして尊敬の念を持つことが暮らしていく根源に存在していたのです。

アイヌは獲物を獲ってきたら、まずお年寄りと子供に分けていました。そして村中に分ける。俺が獲ってきたのだから俺のもんだという考えは、はなっからありません。寡婦もアイヌには多くいました。海漁や山猟で命を落としてしまう男性も多かった。命を失ってしまった男性を夫にもっていた夫人は、再婚はしないことが多い。生き残り、力のある男性が面倒をみる。障害者も同じです。障害を持った人も社会の一員として面倒をみていました。

赤ちゃんも<コタン>のなかでは重要な一員です。赤ちゃんに対して「あれをやっちゃダメだ、これをやっちゃダメだということを言わないように」と親に対して長老は教えます。赤ちゃんの居場所を作ってあげなさいと教えます。赤ちゃんがどう動いてもいい、どこをさわってもいい。そういうものだけを周りに置いておくこと。赤ちゃんは何の知識も持っていません。熱いや冷たいさえ、触ってみなければわかりません。目の前にあるものに興味を持つだけです。だったら赤ちゃんの目の前にあるものを、赤ちゃんが触れていいものだけにしておく。赤ちゃんは生んだ親のものでなく、<コタン>みんなの財産なのです。村人全員の<カムイ>なのです。

寡婦も障害者も赤ちゃんも、大人の男性に比べれば弱い存在です。けれど弱い存在であるひとりひとりがいてこそ、<コタン>という社会が構成されるのです。すべての人に敬いをもって接する。どんな人も自然のなかでは平等です。長く生きている人間は、その経験を伝えていく。獲物を獲る人間は、それをみんなに分ける。人間には上も下もない。それがアイヌなのです。

profile 秋辺得平  
1943年、千島ウルプ島生まれ。アイヌの人権問題に広くかかわるとともに、文化継承にも力を入れ、釧路アイヌ民芸企業組合をベースに精力的に活動を続ける。

8822

関連記事

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑