アイヌ長老の教え 第18回 自然からのいただきもの。

ローカル(日本)

アイヌ長老の教え 第18回 自然からのいただきもの。

語り部・秋辺得平
写真・片岡一史/切り絵・依田恭司郎

生きるためのエネルギー供給源となる食物のことを主食と呼ぶのであれば、現代の日本人の主食は「お米」に間違いありません。

けれど、いつから日本人の主食は「お米」になったのか。そう尋ねると、ある人は「江戸時代だ」と答え、またある人は「農耕が生まれた弥生時代から」と答えます。けれど実情はどうでしょうか。旧農林省、現在の農林水産省の統計によると、日本の過半数の人が毎日のように白いご飯を食べられるようになったのは、昭和に入ってからのことです。やっとご飯を食べられるようになったと思ったら、日本は戦争に突入してしまった。江戸時代までは、人口の9割までが、白米を喰えていませんでした。江戸時代には、ほとんどの人が農民であったにもかかわらず、白米を食べられたのは盆と正月くらいだと言われています。

それでは、日本人は何を主食としていたのでしょうか。それは、粟、稗、きびなどの雑穀です。そして地域によっては芋類を食べていました。

アイヌの主食は何か。それは汁ものでした。汁ものという形態が主食でした。汁のなかに、山で穫れた山菜を入れる。狩猟で獲った魚や肉も入れる。どれかひとつだけを食べるのではなく、常に複合的にいただく。ですからアイヌの食事は、ひとつの食材に偏ることなく非常に豊かでした。

人と自然の関係とは何か。アイヌでは食物をいただくことによって、その関係が成り立っていました。食べものを自然からもらうということは命をいただくということです。いただいた命によって、私たち人間は生かしてもらえる。川や海からは春には鱒をいただき、秋になれば鮭をいただいた。森からは鹿や熊をいただいた。山からは山菜をいただいた。

自然界から何かをいただく。それは食べ物が基本なのですけど、食べるものだけではなく、ある部分は衣類になり、ある部分は工芸品になり、ある部分は薬になる。自然からいただいたものは、余すところなく使う。使わなければ、自然の神様に失礼にあたると考えていました。獲物ひとつ、山菜ひとつでも、自分たちの手に入ったことを感謝する。海の〈カムイ〉、森の〈カムイ〉、山の〈カムイ〉に感謝する。

人間は地球という自然のなかで生きています。人間が自然を保護するのではなく、人間こそが地球に保護されているのです。アイヌの自然に対する感謝の心は、自分が生きていることに対するお礼に他なりません。自然から保護されていることに対する感謝の心なのです。

profile 秋辺得平  
1943年、千島ウルプ島生まれ。アイヌの人権問題に広くかかわるとともに、文化継承にも力を入れ、釧路アイヌ民芸企業組合をベースに精力的に活動を続ける。

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