アイヌ長老の教え 第19回 神様の窓 〈カムイプヤラ〉

ローカル(日本)

アイヌ長老の教え 第19回 神様の窓 〈カムイプヤラ〉

語り部・秋辺得平
写真・片岡一史/切り絵・依田恭司郎

家のことを〈チセ〉と言います。〈チセ〉をどんな場所に建てるのか。そんなことについても教えがあります。

川の水面よりも少し高いところに建てなさい。
山から直接水が降りてくるような水気の多いところは避けなさい。
大波が届いてしまうような海辺は避けなさい。
自然から家や家族を守るための、最低限のことがこれらの教えに含まれています。

土地は誰のものでもありません。人間のものではなく、ましては個人が所有するものでもありません。アイヌでは地主なんてものは存在しません。では、〈チセ〉のための土地を選んだ際に、誰に許しをこえばいいのでしょうか。

〈カムイ〉がご覧になっているから、その土地の〈カムイ〉にお尋ねすればいいのです。

〈チセ〉の中心となる場所、それは囲炉裏となる場所です。そこに細い木で〈ケトゥンニ〉を建てて焚き火をします。〈ケトゥンニ〉とは三脚構造のことです。焚き火をして「この土地を使わせてください」とお願いする。

この儀式から一週間程度、夢見がいいのか悪いのか探ります。悪い夢見がなければ「神様がよろしいと仰った」と考えます。神様のお許しがあって、はじめて家を建てることができます。〈チセ〉を建てるために、村中の人が山に入り、素材を集めてきます。必要な分だけを採り、決して無駄にはしない。〈チセ〉は3日程度で建ったと言います。

〈チセ〉にある窓を〈カムイプヤラ〉と言います。ある研究者が、日高・胆振地方の〈チセ〉のことを調べたことがありました。太平洋岸のこの地方は、北海道のなかでは温暖で雪が少ない地域です。ここには多くの〈コタン〉がありました。北海道に住むアイヌの7割がこの地方に住んでいたと言われるほどです。その地方で、ほとんどの〈カムイプヤラ〉が〈チセ〉の東側にありました。そのことから、太陽が登る方角に窓を作ると研究者は考えたようです。けれど釧路では北側にあります。網走では南側にある。日高・胆振地方の東側には日高山脈があり、阿寒の山々は釧路の北側、網走の南側に位置します。方角ではなく、近隣のもっとも重要な山に向かって〈カムイプヤラ〉は作られていました。

山には水源もあります。山の神である熊も住んでいます。水源の神様を〈ワッカウシカムイ〉と言います。〈ワッカ〉は「水」、〈ウシ〉は「備わる、付く」。生きていくために必要なものを、アイヌは山から頂いていました。

〈チセ〉の〈カムイプヤラ〉から毎日拝んでいたのは山だったのです。

profile 秋辺得平  
1943年、千島ウルプ島生まれ。アイヌの人権問題に広くかかわるとともに、文化継承にも力を入れ、釧路アイヌ民芸企業組合をベースに精力的に活動を続ける。

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