アメリカ北西部のシアトルから内陸部へ車で数時間。そこに絶景のフェスがある。Sasquatch! 2014.5.23-25

トリップ(旅)

アメリカ北西部のシアトルから内陸部へ車で数時間。そこに絶景のフェスがある。Sasquatch! 2014.5.23-25

太古からの風景がそのまま残っているコロンビア川。水で浸食されたその川岸の上に立つ野外劇場。3日間に及ぶキャンプフェス<サスカッチ!>は、この風景が一番のごちそうだ。言葉を失ってしまうほどの大自然のなかでのフェス。アメリカの深さと広さを知るには、もってこいのフェスにちがいない。

文=菊地 崇/写真=林 大輔



メモリアル・ウィークエンドのアメリカで。

ジャムベース(JAMBASE)というアメリカの音楽サイトがある。予定されているライブを検索するサイトで、訪米する予定があるときには、このサイトを必ずチェックしている。アーティスト、ベニューなどが並ぶコンテンツのなかに、数年前からフェスティバルという項目が追加された。アメリカでもフェスの注目度の高さが、このことからも伺える。

国土の面積は日本のおよそ25倍。人口は2.5倍。その広大なアメリカのいたるところでフェスが開催されている。ジャムベースで、この特集号が発行される6月最終週のフェス情報をチェックしてみると、その数は15にもなった。さまざまな景色、さまざまな季節のなかで開催されるアメリカのフェス。3月から10月までをフェスシーズンとするなら週末は30。ざっくりとした計算になるけれど、その週末ごとに10個のフェスが開催されているとしたら300。ジャムベースに掲載されていない幾多のフェスのことを考えたら、いったいどのくらいの数になるのか、想像さえできない。

そんな数多く開催されているフェスのなかで、「世界一の野外劇場」と賞賛されているのがワシントン州のゴージ(GORGE AMPHITHEATRE)を会場にしているのが<サスカッチ!>。2002年にスタートしたフェスだ。毎年、5月最終週のメモリアルウィークエンドに開催されている。


 
世界一の野外劇場にて。

緑と都市が密接したシアトルから東へ200キロ。南北に走るカスケード山脈を越えると、針葉樹が主役だった景色から一転して変わる。赤茶けた土がむき出しになった乾燥地帯。コロンビア川台地と呼ばれている。まとまった雨はほとんど降らないことが明らかにわかる風景だ。樹木はほとんどなく、乾燥に強いセージが大地を占領している。そんな風景のなかに、ゴージは存在している。

最初にゴージへ行ったのは2003年夏。PHISHのサマーツアーのときだ。PHISHも、デイブ・マシューズ・バンドも、アメリカで集客力のあるバンドは、このゴージをサマーツアーに組み入れていく。そしてそれらのバンドのライブが、その雄大な光景とマッチして伝説となって語られていく。

川幅1キロ近いコロンビア川は北から南へ向かって滔々と流れている。東河岸にステージが立ち、ステージ越しに太陽が沈んでいく。川の向こう側は、人の手が入っているようなものはまったく存在しない。数キロ先の上流まで見渡すことができるのだけど、向こう岸からは、夜になっても光が瞬かない。自然のままの姿が、目の前に存在している。国立公園であるのなら、手つかずの自然の風景が残っているのもわかる。けれどこのゴージでは、ライブという最先端の祝祭の場と手つかずの自然がミックスされているのだ。そのフェスだけの特別な会場ではなく、ゴージが常設のステージということが驚きだ。夏の間は20本近くのライブがそこで行われる。こんな雄大な自然のなかにある野外劇場は、おそらく他には存在しない。

近くに町はない。モーテルやスーパーがある人口1万5千人あまりのエレンズバーグが最寄りの町になるのだが、60キロ程度離れている。この町で、大量の水やビール、食料を買い込んでキャンプを張る。それがゴージでの定番スタイルだ。




音に身体をまかせる快感。

フェス初日。開場時間が12時と告知されていた。ライブが開始されるのは13時。2万5千人ものファンを集めるフェスだ。チケットは1カ月近く前にソールドアウトになっている。ある程度の混雑を想定し、早めに出発した。しかし、フェス特有の渋滞はまったく体験しないまま、駐車場に車を進めることができた。拍子抜けするほどのスムーズさだ。すでにキャンプサイトは車でいっぱいだったことを考えると、前日入りしていたファンが多いのだろう。

ボックスオフィスで日本からオーダーしていたチケットを受け取り、ゴージのなかへ。

ゲートから一番奥に位置しているのが、メインステージのサスカッチ。ここが野外劇場のステージだ。ゲートからゆっくり歩いて10分程度。そもそも野外劇場であり、フェスの会場ではないのだから、それほどの広さではない。むしろフェスの収容人数を考えればコンパクトなサイズだ。すり鉢状になった斜面は芝生が敷かれている。ここに寝転びながら風景とライブの共演を楽しんでもいし、ステージ近くのフロアへ行って踊るのもいい。お気に入りのバンドのライブに合わせて、自由にライブと向き合えばいい。

ゲート近くの平坦な場所にセッティングされているのが、ビッグフット、イエティ、ナーハルの野外ステージとエル・チュカパブラの巨大テント。ビッグフットがセカンドステージだ。その5つのステージで、同時にライブが進行していく。ちなみにそのステージ名は、すべてUMA(未確認動物)から名付けられている。サスカッチはアメリカ先住民に伝わる雪男のことだ。ステージの意味を知ると、なるほど着ぐるみを着ているファンの姿が多い理由がわかってくる。フェスの個性は、そうやってファンによっても構築されていく。



個人的な好みを言えば、サイケデリック〜ジャム系やカントリー系のバンドがほとんどラインナップされていないこともあって、「これを見なきゃ」というバンドは少なかった。<フジロック>や<サマーソニック>に来日するバンドを軸にしながら、気の向くままにステージ間を流れていく。そんなフェスの時間を過ごすという贅沢さを味わうことができた。そんなときにこそ新しい発見がある。

ライブは12時から24時過ぎまで。ひとつのステージに、7組から9組のバンドが出演する。バンドの持ち時間が、サスカッチのヘッドライナー以外は1時間程度と短い。ミュージシャンから放たれる音に集中していくと、あっという間に終わってしまう。それぞれのステージからちょっと離れてしまうと、音が混じり合ってしまう。けれど、それもOK。気に入った音が身体に入り込んできたならば、その近くまで歩んでいけばいい。

ヒップホップとインディーロック系が多いこともあって、他に行ったことがあるアメリカのフェスに比べるとファンの年齢層が若い。<ボナルー>はもちろん、<コーチェラ>にも、僕と同年代だと思われる白髪世代がいたのだけど、少なかった印象だ。




サザンロックをバックボーンにした音を響かせてくれたジョナサン・ウィルソン、ドキュメント映画『シュガーマン』の公開によって注目を集めているロドリゲス、新しい黒人ギターヒーローを感じさせてくれたブラック・ジョー・ルイス…。足を止め、気に入ったバンドの音は、やはりルーツ系ロックばかり。特に<フジロック>にやってくるジョナサン・ウィルソンは、聞いていたCDとはまったく違うアグレッシブさがあった。他には、ピンク・フロイドのサイケデリック感をかいま見せてくれたアラスカ出身のポルトガル・ザ・マン、シアトルをベースに活動するジャズファンクのポリズムリックスあたりが、今回の<サスカッチ!>の収穫だった。いずれもはじめてライブを体験するミュージシャン。年齢を重ねるにつれて自分の音楽の好みもはっきりしてきて、未体験ゾーンになかなか入り込んでいかないものなのだけど、多くのバンドの音を楽しみ、共有することができた。その意味では、フェスだからこその時間を体感できたと言えるだろう。




自然が与えてくれる最高の時間。


何も決めずに音楽を受け入れていった3日間。ビールを呑み、空を眺め、風を感じ、そこに集う人たちの歓びを共有する。唯一、ゴージにいることによって決まったことがあった。それは、午後7時半あたりから午後8時半ころまでは、メインステージのサスカッチにいること。夕陽の時間だ。何万年という時間をかけて、川の水が大地を削って作られた渓谷。川幅は、おそらく1キロくらいで、崖の高さは300メートルはあるだろう。あくまで、見えた印象なので、その数字はまったく違うかもしれない。けれど、そう感じさせてくれる大きな景色のなかに沈んでいく太陽と、少しずつ色を変えていく空。ページェントとは、まさにこのことなのだろう。景色に圧倒され、言葉を失ってしまうとはこのことなのだろう。この刻々と移り変わる色と音楽のシンクロは、ゴージでしか体験できないものだ。一瞬と永遠が見事なまでに目の前に現れてくる。<サスカッチ!>というフェスで一番のセッティングであり、他に替えのない一番の時間。それが、この時間だった。語弊があるかもしれないが、この環境があれば、どんなライブも最上の時間になれる。そんな気も起こってきた。

雄大な風景という最高のメインディッシュがある〈サスカッチ!〉。アメリカ人は、楽しむことにかけては天才的だと思う。そしてどん欲的だと思う。日本人なら、人の手が入っていないような場所に野外劇場を作るなんてアイデアは生まれない。

フェスには必ず個性がある。<サスカッチ!>でも、またそのことを感じた。



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  Lj 35号(2014.6.27)



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